「映画の話などしたけれど…」堤真一との絶妙な距離感

明治維新後の日本、武士の時代と近代化の間、三之丞もそんなふうに感じていたかもしれない。
『ばけばけ』の現場にもさまざまな世代の人たちがいる。そのなかで最年少側(今回、主演の高石あかりと同世代)であることが多いだろう。そんななかで、現場での立ち居振る舞いで心がけていることはあるだろうか。
「作品によって立ち位置や、現場の居方はもちろん変わってきます。例えば、『ばけばけ』では、三男坊で父親・傅とは、近くにいても目を合わせてもらえないという役です。なので、傅役の堤真一さんには現場ではあまり話しかけないようにしていました。
もちろん顔合わせのときにご挨拶はして、見た映画の話などをしたのですが、撮影に入ってからは自然とあんまり仲良く話し過ぎないようにしていました。それがすれ違う傅と三之丞の絶妙な空気感になったのかなと思います」
さらに、現場に携わるスタッフをはじめ、周りへの意識も高かった。
「自分ひとりで作っているものではなく、現場には俳優だけでなく、プロデューサーや監督、撮影部、照明部……いろいろな部署の人たちがいて、その人たちがそれぞれプロフェッショナルの立場から、こういう風に作りたい、こういう風に撮りたい、こういう風に表現をしたいという思いをもって臨んでいる中で、それをみんなでうまく総合芸術として一つにできたらいいなと思うんです。
僕自身も僕なりに、自分のこのシーンのこのセリフを感情として言いにくいことがあったときに、それを監督にお伝えしますが、何が何でもこのセリフはこうでないと言えませんということではなくて、きちんと監督の意図や脚本の意図をくみ取りながら、お互いにとっていいところで納得できるものを作りたい。
僕は絵を描いていて、それは完全に一人で作ることもしていて、そこの差ですよ。ドラマや映画は、本当に多くの人たちが関わる総合芸術なのだという意識はまず一つ大事にしています」
個の表現と総合芸術の表現というものの両輪で、明確に切り分けながら活動しているクレバー(賢い)な人だった。