小西医師が語った
訪問診療の構想

 前出経営者によれば、医者の仲間数名も小西医師にカネを貸して返済されていない。小西医師は「訪問診療を行う優秀な医師のネットワークを作る」という構想を持っていたとされる。

 訪問診療を担う医師は患者の容体が急変すればいつでも駆けつけなくてはならず、勤務医にくらべて負担が大きい割に診られる患者数が少ないため実入りも少ない。しかし、志の同じ医者が集まって交代で広域に訪問診療ができる体制が作れれば「自宅で死にたい」というお年寄りの希望に沿える。

 小西医師は「自分がそのハブになる」などと理想を語り、その一環で前出の「医師連合会」という社団法人にも携わっていた。小西医師のまわりには理念に共鳴する若い医師が集い、彼らからもカネを集めて返していない。ある医師は2000万円くらい貸しており、あれほど理想を熱く語っていた人が我々をだましていたとはいまだに信じられないと言っているという。また、看護師にも被害者がいるもようだ。

 小西医師が多くのひとたちから多額のカネを借りられたのは、医者としての信用力が物を言ったのはもちろんだが、それだけではない。

 前出の経営者によれば、とにかく言葉巧みだったという。「小西医師がわたしに金を借りにきたとき、何度目かからは『これはうそだな』とうすうす気づいていました。それでもあまりにその話術が巧みで、こちらの質問にどう返すのか楽しみになってしまっている自分もいました。なぜ返せないのか、なぜカネがまた追加で必要なのか、どうやって返すのか、顔色ひとつ変えず、その場で次から次と破綻のないストーリーを紡ぎだせるというのは一種の天才だと思いました。わたしは金融のような仕事をしているので、これまでいろんなひとと会い、なかにはだまされたこともありますが、こんな気持ちになったのは初めてでした」

 その天才的な話術でどこかの医師に自らの死亡診断書を書かせてしまったのだろうか。