クマ除けのための道具なら
爆竹に勝るものはない

「お互いの姿はよく見えるけど、距離があるから襲ってはこねえ。ただただ、鈴を鳴らすこちらの様子をじーっと見てるのさ。で、見てろよと、爆竹に火をつけて投げると、その音に驚いて、ガッサガッサと逃げていったよ」
 
 クマ除けのための道具ならば、爆竹に勝るものはないと高柳さんは言う。春の山菜採りや秋のキノコ狩りなど、鉄砲を持たず入山するときは10個ほど用意し、ターボライター(編集部注/燃料に合成ガスを使用し、瞬間的に完全燃焼させてバーナーから炎を発生させるライター)と併せ持つ。見通しの悪いところなど、嫌な感じのするところでは、躊躇せずに爆竹を鳴らすという(編集部注/爆竹の使用の際には火災に気を付けること)。

 人間の1億倍の嗅覚を持つ犬よりもはるかに鼻が効くというクマは、こちらの存在を容易に察知するだろう。そのため、猟期に入ると、高柳さんは石けんや洗剤の類を使わない。

 私たちが山に入る場合、鉢合わせの可能性がある以上、鈴や笛も「こちらの存在を知らせる」という意味では有効なのかもしれない。とはいえ、手負いのクマや、人間を食べたことのあるクマがそばにいる場合、こちらの存在を知らせることは、致命的な状況に追い込まれかねない。

春の山を歩く際は、雪に深くめり込まないようにかんじきを履く同書より転載 拡大画像表示

銃を持たずにクマと遭遇
母グマがわっと駆け寄ってくる

 そんな高柳さんも、鉄砲を持たずに至近距離でクマに出遭ったことが二度あるという。

「一度は秋のマイタケ採りで、ミズナラの木に近づこうとしたんだよ。そのとき、沢で変な声がしたから、なんだべなあと覗いたら、親子グマがいたんだよ!」

 高柳さんの姿を認めた母グマは、わっとこちらに駆け寄る。高柳さんは斜面を駆け登りながら、長い棒を探す。腰に愛用の剣鉈を下げていたが、そのことは頭になかったという。