大きな岩をぶつけるべく持ち上げて
母グマとにらみ合いに
「そしたら、でっけえ岩があって、ぶつけてくれるべえと持ち上げて待っていたら、目の前まで来て止まり、威嚇するように立ち上がった。にらみ合っていると、沢から子どもの呼ぶ声がするんだ。野郎め、一瞬困ったような顔をした後、谷に下りていったんだよ」
それでも、しばらくは振り返り、ことあるごとに向かって来ようとする。そのたびに、沢にいた子グマが母を呼び、その声に導かれるように、クマは離れていったという。
「もう一度は春の山菜採り。そのときは、クマ犬として仕込んだ賢い紀州犬と一緒だったんだけど、あれも怖かったよ」
犬がクマを何度も連れてくる
大きな石をクマの足下に投げつける
雪の残る山でフキを刈っていたところ、うなり声が聞こえた。
「やべえ、クマだと思ったら岩の上にいる。そうしたら、パルが『ウワワワワン』と吠えながら飛んできたんだよ」

愛犬はクマを追う猟犬として、幼いころからクマ肉を与えて育ててきた。高柳さんがクマを撃つことで、新鮮なクマ肉にありつける……愛犬はそんな期待に目を輝かせる。
「だからやっこさん、クマの匂いを嗅ぐなり、猛烈に吠えながら、適度な距離を保ちつつおびき寄せ、こっちをチラチラ見ながら『早く撃て!』って言うんだよ。だけど、こっちには鉄砲がねーんだよ」
仕方がないので、大きな石をクマの足下に投げつける。すると、その音に驚いたクマは藪へと逃げた。
「そうしたら、パルのやつが矢のように飛んでいって、またクマを連れて来て『早く撃て』って。あれは、ほんとにまいったよなぁ。それっきり、鉄砲を持たないときは犬は連れていかなかったよ」