
「いやーーー」銀二郎が出奔
勘右衛門(小日向文世)だ。
反対することが目に見えていたので、勘右衛門には秘密にしていたが、司之介(岡部たかし)が漏らしてしまい、勘右衛門は連れ戻しにくる。
これまで松野家の婿として勘右衛門や司之介を懸命に立ててきた銀二郎。だが、もう黙っていられない。
「格を気にしちょる場合じゃございません」と言い返し、勘右衛門に鎧(よろい)や刀を売って金を作ってはどうかと提案した。正論だ。
自分は荷運び、内職、客引きと働き続け、死ぬ気で働き死にかけそうになっているのに、いくら高齢とはいえ、何もしてない勘右衛門。一応働いているが、切実さに欠ける司之介に銀二郎も我慢の限界が来ていた。視聴者全員が銀二郎の味方であろう。どう考えてもおかしい。
にもかかわらず、司之介は「恥をさらしたお金などいらん」と意地を張る。やりきれない。
夜遅く、くたくたで銀二郎が帰宅すると、トキが食事の支度をして迎える。その手を引っ張って、外に出て、手をにぎにぎしながら、「どこか遠い町で暮らしませんか。誰も知らん町でふたりきりで」と言ってみる銀二郎。
「都会には山ほど仕事があり給料もよく松江では聞けん怪談がある」と至極正当な理由を述べる。
東京では『牡丹燈籠(ぼたんどうろう)』が大流行していると、トキの心をくすぐる銀二郎。
「聞いてみたいです」とは言うが、トキは本気で彼の気持ちを聞いていないみたいだ。
その晩なのか、まだ薄暗い時間、トキが目を覚ますと隣の布団が空!
置き手紙を読んで「いやーーー」と絶叫。
いつもの不穏なリズムの劇伴が鳴り、トキは激しくうろたえる。
「私のせいだ せっかく来てくれたのに 甘えちゃった ずっと一緒だと思って」
ようやく気づいたのか。ひど過ぎる。これも朝ドラ革命。これまではたいてい、ヒロインが結婚することで不利益を被ってきたが、今回は、主人公が夫の奉仕を搾取している側で、それも悪気なく、ただ、そういうものと思い込んでいる。
これまでのヒロインも、他者のそういうものだという思い込みで不利益を被ってきたのだ。それが『あんぱん』で学んだように正義が逆転している。のぶ(今田美桜)が軍国主義に流されたように、トキも他人から搾りとって平然としていた。なんてシビアな話なんだ!
勘右衛門は、ついに古道具屋に大事な刀や兜(かぶと)を売ってお金を作る。それで東京に旅立った銀二郎を連れ戻してこいと言う。うっかりするといい話のように勘違いしてしまうが、司之介のしようとしていることは、足抜けした遊女を連れ戻してまた働かせようとしているのと同じではないか。
怪談よりこわいことが起こっている。
こうしてトキは東京へ――。