「人口の半分はしじみ。もう半分は出雲そば」「根岸シャラップ」帝大生たちの“コント”が秀逸で…蛇と蛙の立場は?〈ばけばけ第18回〉

「毎朝しじみ汁を作って」

「おかえりなさいませ」

 トキが恭しく迎える。風鈴のかすかな音が心もとない雰囲気を作り出す。

 今週の演出は松岡一史。名作『カムカムエブリバディ』にも参加していた。カムカムのチーフディレクターだった安達もじりの映画『港に灯りがともる』(2025年)では監督補をしていた。情緒面をしっかり抑えた演出をしている。

 ふたりは外へ。下宿の傍らには神社があってそこで語らう。

 根岸と若宮は橋の南側にある小学校の同級生だった、と説明する銀二郎。つまり、いま、トキたちが住んでいる方だと思う。貧しくても、松江では帝大生になると、毎月10円の援助を松平伯爵からもらっている。そりゃあ、みんなお金欲しさに勉強に励むだろうなあと思う。

 他人の話でお茶を濁すが、本題にはなかなか入れず、もじもじ。

「あの」「あの」「おトキちゃんから」「銀二郎さんから」と遠慮し合う。

 そのうち銀二郎が土下座。「ほんとにほんとに(申し訳ない)」という気持ちであるが、「ただ!」と声を大きくし、「もうあの家には帰れん」と銀二郎の意思は固い。そりゃそうだ。

 おトキは好き、でもあの家は無理。ごもっとも。

「朝から朝まで働かされて。それが一生続くかもしれん。そげなこと誰も我慢できん。なのに……なのに。私もほんとに甘えちょった」

 トキも土下座。
 
 銀二郎は、勘右衛門(小日向文世)が刀や兜(かぶと)を売ってお金を作ってくれたとトキから聞いて、ちょっと首をかしげていたように見えた。やっぱり、追いかけるためにお金を作ることに疑問なのではないだろうか。もっと早くに家族のためにお金を作っていれば、銀二郎も出奔しなかったかもしれない。

 これで家に戻ったら、また働かされるだけだ。

「一緒に暮らしたい」「毎朝しじみ汁をつくって」と願うトキの手を銀二郎は握る。

「東京で 夫婦ふたりで暮らしませんか」