彼女の弁護士も、このままでは余被告が刑を終えて出獄するまで裁判は開かれないだろうと言った。だが、それが実現するときには王さんはもう70歳になっている計算である。
離婚しなければ、その後授かった子どもが夫との戸籍に入ってしまう
さらに問題は、生まれたばかりの子どもの戸籍だった。このまま婚姻状態を続けていれば、子どもは余被告との戸籍に入ることになってしまう。それは絶対にいやだと考えた王さんは、余被告とその両親に離婚を受け入れるよう交渉したものの、「お前のせいでこんなことになったんだ。離婚したければ、慰謝料3000万元(約6億4000万円)払え」と逆に金を要求されたという。
もちろん、それに応じるわけにはいかなかった。
そのため、王さんは離婚を急ぎ、さまざまな手段を探した。その結果、法学者を通じて、民法に家族を虐待、あるいは遺棄した場合は裁判で離婚を求めることができるとの記述があるのを知り、裁判所に相談した。
王さんの事件は中国でも広く知られており、そのおかげだろう、彼女の要求は最高人民法院、外交部にも報告され、その結果、過去前例のないオンライン形式による余被告の出廷が認められたのだった。
夫だけでなく、その親もとんでもない人間だった
離婚裁判には、余被告の母親も出廷。王さんによると、余被告の両親は、王さんが事件後まだ入院中だった頃、王さん夫婦が暮らしていたマンションを訪れ、現金や王さんのジュエリー、その他家財道具など金目のものを全て持ち去ったという。
その母親は今回の裁判でも、「あんたがお金持ちすぎるからいけないのよ。息子はあんたのお金にそそのかされて罪を犯した」と証言し、裁判を見守っていた人たちを唖然(あぜん)とさせたと報道されている。
しかし、冒頭にも書いた通り、裁判所は最終的に余被告の犯した罪は無視できないとして、王さんの資産を余被告に分与することなく、王さんの離婚を認める判定を下した。さらに余被告に命じられた慰謝料の50万元(約1000万円)は、中国における離婚慰謝料からすれば破格の額である。