2019年春、王さんは妊娠した。それを聞いた余被告は、2人で生命保険に入ろうと言いだした。それぞれ相手を受取人にしておけば、どちらかに何かがあったときにも子どもを育てていける……妊娠後、甲斐甲斐しく王さんの生活に気を配るようになった余被告に、王さんは「これでやっと落ち着いた生活が送れるようになる」と喜んだのだった。

「日の出を見よう」と断崖絶壁の観光地に妻を連れ出して……

 その年7月、「郊外のパーテーム公園で見る日の出はロマンチックで、開運の意味があるらしい」と余被告に誘われた王さんは、まだ真っ暗い中、余被告やそのほかの観光客とともに朝日の名所である断崖絶壁に向かった。日の出を見終わった後、同行の観光客たちはバラバラとそこを去っていったが、王さんと余被告はしばらくそこに座り、登ったばかりの朝日を眺めながら余韻に浸っていた。

タイ パーテーム国立公園 Photo:PIXTAタイ パーテーム国立公園 Photo:PIXTA

 その時、王さんは余被告が耳元で「去死[口巴]」(さあ、死ねよ)とつぶやくのを聞いた。そして、余被告に肩を押され、王さんは崖の上から30メートル下へと突き落とされたのだ。「その時の囁きは今も耳から離れない」と、王さんは言う。

 余被告は、王さんを突き落とした後、40分ほど現場に残り、王さんが叫び声などあげていないことを確認して、下山した。