17カ所を骨折するも生還、しかし本当に恐ろしかったのは

 王さんがラッキーだったのは、落ちた際に木の枝に引っかかり、その勢いが減じられたことだった。さらに、落ちた場所は普段なら人通りのないところだったにもかかわらず、この日道に迷ったハイカーが通りかかって王さんを見つけ、すぐに救急車を呼んでくれた。

 王さんは全身17カ所を骨折。お腹の子どもは奇跡的に無事だったものの、王さんのケガの状態で出産は無理だと判断されて、人工流産した。さらに、今後妊娠はできなくなるだろうと告げられ、また王さん自身も一生車いすの生活になるかもしれないと診断された。

 だが、王さんにとって最も恐ろしかったのは、病院のベッドで目を覚ましたとき、そこに余被告の姿があったことだった。余被告は下山の途中、公園に向かう救急車のサイレンに気付き、その後を追って、救急車に乗り込んで病院に運ばれる王さんに付き添ったのだ。

 余被告は王さんにつきっきりで、甲斐甲斐しい夫役を演じ続けた。ベッド上で行われる警察の取り調べにも、「不注意で足を滑らした」と証言するよう脅されたという。警察が引き上げた後に余被告がそばを離れた隙を見て、王さんは医師に「本当は夫に突き落とされた」と伝え、やっと余被告は逮捕されたのだった。

 タイ警察の取り調べでは、余被告は王さんにかけられた保険金、そして王さんの資産を手に入れるために、彼女を殺そうと計画したとされる。余被告はその後タイで起訴され、3回の裁判を経て2023年に33年4カ月の懲役判決を受け、服役した。

夫は海外の刑務所。裁判に出廷できなければ離婚できない

「一生車いす生活かもしれない」と言われた王暖暖さんだったが、退院直後こそ電動車いすで生活していたものの、その後8回の手術、そしてリハビリを経て今や自分の足で歩けるようになり、基本的な生活の手段を取り戻した。さらに、昨年9月には人工受精による赤ちゃんを出産したことをSNSで明らかにした。

 だが、普通の生活に戻ろうとする王さんにとって、大きな障害があった。王さんはすでに2023年9月に江蘇省の裁判所に余被告との離婚を求める民事訴訟を起こしていた。しかし、海外で収監されている余被告が裁判に出廷できないことを理由に、離婚の手続きが進まなかったのだ。