ビアンキらは、人間の健康や病気を調べる研究には「選択的中絶や流産を含む、完全な妊娠歴を含める必要がある」と述べている。親子の間の生物学的なつながりは「最も基本的で、微細な細胞レベルにおいても」生涯にわたって続くものだとする。
妊娠中や産後の状態が
その後の人生に与える影響
妊娠中や産後早期のホルモン値の変動は人生の他のどの時期よりも劇的だ。出産後、ホルモン値は安定するが、妊娠前の状態に完全には戻らず、変化は恒久的かもしれない。
 『奇跡の母親脳』(チェルシー・コナボイ、竹内薫、新潮社)
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齧歯類と人間を対象とした数多くの研究では、ホルモン値とホルモン受容体の発現に持続的な変化が確認されている。母親は母親でない女性と比較してエストロゲンとプロラクチンの値が低下しており、これらホルモンの変化が他の神経生物学的、免疫学的変化と相まって、出産歴に応じた疾病の発症率や重症度の違いを引き起こしていることは間違いないだろう。
しかしほとんどの場合、妊娠回数や妊娠合併症がアルツハイマー病や心血管疾患、脳卒中のリスクとどう関連するか、そのメカニズムは解明されていない。
多くの疑問が残されているのは、妊娠と出産を人生の流れから切り離し、独立した身体の問題として扱う傾向に起因している。妊娠前の健康状態が妊娠中の健康状態に影響を与えることはある程度わかっているが、それ以上に重要なのは、妊娠中や産後の健康状態がその後の人生の健康に関わる可能性があるという事実だ。
出産後、脳を含む臓器は単純に元に戻るわけではなく、形状や大きさ、機能に変化が生じる。親になることが生涯にわたる身体的・精神的健康に影響を及ぼす発達段階ということならば、医療や研究、治療法の開発でもそれは充分に考慮されるべきだろう。







