ゴールと文脈を共有すれば、応用力が育つ
では、なぜ多くの企業で応用力が育たないのでしょうか。多くの場面で、「応用が利かないのは、真剣度が足りないから」「頭を使って仕事をしていないから」と言われています。もしかしたらそういうこともあるかもしれませんね。でも、相手の責任にしているだけでは状況は変わりません。少し冷静になって考え直してみましょう。
そもそも、応用を利かせられるのは、「今回のケースと、前回のケースが同じ」「あれとこれは一緒だな」と思えるからです。共通点を見出し、同じように考えればいいと感じられるから「応用が利く」のです。
そして、このように応用を利かせられるのは、仕事の目的と文脈(コンテクスト)をチームで共有しているからです。そのタスクを何のためにやっていて、どこをゴールとして動いているかを理解しているからこそ、「じゃあこの場合はこれをすればいいんだよね」と自分で考えることができるわけです。
逆に、その文脈がわからなければ、その都度上司の判断を仰がなければいけないことになります。つまり、メンバーの応用が利かないのは、「どこに向かって仕事をすればいいか理解させられていないから」でもあるわけです。
もちろん、メンバーが自身が積極的に質問したり、自分で確認するなどしてゴール・文脈を理解していく努力が必要です。ですが、メンバーにその理解を促すことで、チームとしての生産性は圧倒的に向上します。となれば、リーダーとしてそう仕向けるのも大事な仕事だと考えられます。
「抽象的に考えられるようになれ」
「頭を使って仕事をしろ」
と伝えても、メンバーは何をしていいかわからず、結局動けません。大事なのは、その業務のゴールを明確に伝えること、そしてなぜそれが大事なのか、どんな条件を満たしたうえでゴールに向かって進むべきなのかという文脈を明確に伝えることです。
経営者がすべきこと
かつては「細かく言わなくても、だいたいわかるだろ?」という組織文化がありました。そのため、仕事のゴールや文脈もメンバーが察しなければいけない状況でした。でも今は違います。顧客の好みもニーズも多様化しているので、「何のためにこの仕事をしているのか」というゴールと文脈は改めて言語化する必要があります。そしてそれはチームリーダー・経営者の仕事です。
目の前の業務に追われていると、「そんな暇はない」となりがちです。だからこそ、リーダーや経営者が時間を使って言語化し、時間をかけてメンバーに言語化して伝える必要があります。
組織のコミュニケーションが言語化されれば、ノウハウが蓄積され、メンバーの応用力が上がります。長期的には、圧倒的にプラスなのです。
企業の人材育成において、最も重要なポイントの一つが「応用が利く人材を育てること」です。細かいことをイチイチ言わなくても各メンバーが自分で考えて動けるようになるためには、この言語化をベースにした応用力が欠かせません。慣れない作業ですので、最初は大変かもしれませんが、長期的には必ず組織力を大きく引き上げることになります。







