この事件をきっかけに、20~30代を中心にカンボジアに渡航した韓国人が行方不明になっているケースが次々と明らかになった。政府がカンボジアに捜査協力を求めていた矢先の10月15日には、さらにショッキングなニュースが飛び込んできた。韓国人の女性がカンボジアとベトナムの国境近くで遺体で発見されたのだ。

 女性の遺体には目立った外傷などはなく死因は不明とされているものの、この女性が「仕事を探しにカンボジアに行く」と周囲に話していたこと、現地から家族に「送金してほしい」という電話が入っていたという証言などから、女性が監禁などのトラブルに巻き込まれたと見られている。

「東南アジアに行く」は珍しくないが……身近に潜む犯罪組織の影

 近年、韓国では東南アジアが旅行先としてはもちろん、ビジネスや語学研修、留学先といった教育面でも人気が高い。こうした背景もあり、被害者やその他の行方不明者が周囲に「カンボジアに行く」と言っても、家族や友人は疑問や不信感を特に持たなかったと思われる。

 しかし、今回の事件が発覚する以前より、韓国では「ボイスフィッシング」(Voice Phishing、ピッシングとも)と呼ばれる特殊詐欺が深刻な社会問題となっていた。今回の事件を見れば、すでに犯罪組織の拡大や闇バイトが学生など身近にまで浸透しており、事態が想像以上に深刻だということがうかがえる。犯罪の手口は巧妙化し、日常生活の中に溶け込んでいるのだ。

原因の一つは、若者の就職難?

 勧誘や求人募集によってカンボジアに渡った若者たちの背景には様々な事情があり、韓国社会が抱えている構造的な問題もあると推測されている。その一つとして、若者の就職難による厳しい現状が挙げられる。

 就職難の原因は長引く経済の低迷もあるものの、韓国の厳しい学歴主義により若者の職に対する理想が高く、選り好みが激しいという側面も指摘されている。

 企業名や労働条件などにこだわるあまり、選択肢の幅を自ら狭めてしまっていること、そして求人情報の「高収入」「高待遇」「海外勤務」といったキーワードに反応しやすい心理状態にあると見られている。また、韓国の若者は身軽で海外に行くことに抵抗が少なく、積極性もあることから、犯罪組織から見れば闇バイトに誘い込むのが容易なのかもしれない。