政府の対応と政治的思惑

 事件の発覚を受けて、大統領の李在明氏は「被害者の保護と韓国への送還を一刻も早く行うべきだ」と強調し、対応にあたっていくとした。しかし一方で、一部メディアでは以前より東南アジアで犯罪組織の暗躍が横行しながら、ここまで対応が遅れたのは尹前政権の怠慢だといった論調も見られる。韓国社会にとってすべての不都合なことや問題を尹政権の責任にしたい李政権の思惑が感じられなくもない。

 そうでなくとも韓国は9月29日から中国人観光客のビザなしでの入国が可能となり、国民の間で否定的な意見や不満が高まっている。この件については別記事で現状を改めて取り上げたいと思っているが、李氏にとっては、「これ以上、批判の矛先が自身に向かわないようにしたい」という思いもあるだろう。

韓国だけでなく日本でも。世界のZ世代が狙われる闇バイト、闇案件

 しかしこうした事件は韓国に限ったことではなく、実は世界各地で起こっている。犯罪組織による「高収入」な求人に応募し、犯罪の片棒担ぎに引き込まれる若者が後を絶たないのだ。

 例えば、今年1月には中国の若手俳優が「仕事のオファーを受けた」として渡ったタイで拉致され、その後ミャンマーで保護された事件があった(参照記事)。3月にはウクライナの20代のインフルエンサーの女性が中東ドバイでパーティーに参加した後、行方がわからなくなり、瀕死の状態で発見された「ドバイ案件」と囁かれた事件も記憶に新しいところだ。

 これらに共通しているのは、SNSやネット掲示板などオンライン上で仕事やイベントの誘いを受けたり、求人を見て問い合わせたことでトラブルに巻き込まれているという点だ。「デジタルネイティブ」と呼ばれ、生まれた時からスマートフォンやタブレットが身近にあり、それらと生活を共にする環境で育ってきたZ世代にとって、オンライン上で不特定多数の人とのつながりを持つことに抵抗を感じないのだろう。しかし、そこには大きな落とし穴が潜んでいる。

 家庭や学校でのネットリテラシー教育の必要性が叫ばれたり、オーストラリアや欧米では未成年のSNS使用禁止や制限を法律化するなど、若い世代へのネットの悪影響を問題視する動きが広がっている。未成年の子を持つ筆者も折々、子どもに関する社会の事件や事故のニュースを取り上げながら注意を促したりと心がけているものの、やはり不安は常につきまとう。

 高齢者を狙った詐欺の手口が巧妙化しているように、若者を犯罪組織に引き込む手口も今後一層、複雑化していくと思われる。国を越えた協力体制の構築など、早急な対策が求められる。