前出の篠田氏は、「そうやって次々とマスコミがピンポンを鳴らす行為が、彼女が事件関係者だというのを近所中に拡散する恐れがある」と記していますが、ただでさえ身内の突然の逮捕で動揺し、不安になっている家族は、過熱報道によりさらに追い詰められていく現実が浮き彫りになっています。(※注3)

報道の一部を否定しただけで
犯罪擁護だとレッテル貼り

 ここまでは、マスコミの過熱報道により、加害者家族が精神的、社会的なダメージを被った例を取り上げましたが、加害者の家族がマスコミや世間に対して、加害者当人にかけられた疑惑を否定することもあります。

 2024年、人気お笑い芸人が撮影現場で20代の女性タレントに性的暴行を加えるなどしたとして、不同意性交と不同意わいせつ罪で在宅起訴されました。

 しかし、事件発覚当初は芸人の妻が「一部事実と違う報道がされております」「一方的な行為ではなかった」など、夫の容疑を否定する内容をSNSに投稿していました。

 これに対しネット上では、「夫の性加害を擁護するのか」「被害者に対するセカンドレイプだ」という声も巻き起こりました。

 何が真実かは裁判の結果を待たなければなりませんが、投稿に記されていた「私にも守るべき子どもがいますのでお伝えさせていただきました」という一文には、強い意思が感じられるように思えます。

 これらの報道は、事件とは関係のない人にとっては数あるニュースのひとつに過ぎません。とくにインターネットやSNSが普及したいまでは、日々新たな事件や事故や、いわゆる「炎上」を招くようなニュースがめまぐるしく報じられ、よほどのことがなければ数日で忘れ去られてしまいます。

 幼い頃に父親が強盗強姦事件を起こし、一家離散した経験のある芥川賞作家の西村賢太氏はこのように綴っています。

 他人に関するその報道はすぐに忘れても、肉親のそれには今まさに生々しい痛みをかかえ、理不尽な十字架を背負わされた怒りの中にある人もいるはずだ。(※注4)

 事件を報じるマスコミ、そしてそれらをなかば興味本位で見聞きする受け手にとってはごくありふれた事件報道も、加害者家族にとってはその後の人生を狂わせるほどの強烈な「痛み」をともなうことが、この一文からも伝わると思います。

注3 篠田博之「『うずしお先生』事件で逮捕された性犯罪更生支援団体代表と妻との涙の面会に同席した」Yahoo!ニュース、2021年7月22日
http://news.yahoo.co.jp/expert/articles/9bd92dabe6f31e5074fa53fa843b581f57bc0e4b

注4 西村賢太「父の性犯罪により解体した家族。犯罪加害者家族の背負う罪なき罰」講談社、2020年2月26日
https://news.kodansha.co.jp/books/8163