「天気予報」より「地殻変動」を見る

 では、ベイリー社は、この狂乱の市場で一体どこに目を向けているのか。

 ベイリー社の投資哲学は、シンプルで、力強い。ベイリー社は、明日の株価が上がるか下がるか、という「天気予報」には一切関心を示さない。

 ベイリー社が見つめているのは、AIの進化、医療技術の革新、社会のエネルギー構造の変化といった、10年、20年という単位で世界を根本から変えてしまうような、巨大な「地殻変動」である。

 短期的な市場のセンチメントは予測不可能だが、長期的な社会の変化の方向性はある程度見通すことができる。ベイリー社は大きな潮流を見極め、その変化の波の最前線で大きく成長するであろう企業に、まだ誰も注目していない早い段階から資本を投じるのだ。

 この哲学の正しさは、驚くべきことに、最新の学術研究によっても強力に裏付けられている。

 2023年に学術誌『Journal of Service Research』に掲載された、ティモシー・キーニンガム教授らの論文「企業の革新性に対する顧客認識と市場パフォーマンス」は、投資の世界に新たな光を当てた。

 この研究が画期的なのは、従来のアナリストが見ていた特許数や研究開発費といった「企業内部」の指標ではなく、「顧客の目」という外部からの評価が、企業の将来価値をいかに正確に予測するかを、5年間にわたる膨大なデータで証明した点にある。

 論文は次のように結論付けている。

《the research finds that customers' perceptions of a firm's innovativeness are significant predictors of future abnormal stock returns. Additionally, it reveals a positive relationship between changes in customer satisfaction levels, as measured by the American Customer Satisfaction Index, and abnormal stock returns. Together, these findings point to the importance of customer perceptions on firm performance.》
(本研究でわかったことは、顧客が「あの会社は新しいことに挑戦していてすごい」と感じているかどうかは、その会社の株価が将来、市場の平均以上に上がるかを予測するのに非常に役立つということです。
さらに、顧客満足度が改善してきている会社も、同じように株価が上がりやすい傾向があることも明らかになりました。これらの結果から言えるのは、企業の将来の成績を判断するためには、「顧客がその会社をどう見ているか」という点が非常に重要だということです)

 つまり、「この会社の新製品は私の生活を変えた!」「このサービスなしの人生は考えられない!」といった顧客からの熱狂的な支持こそが、未来の企業価値を映し出す最も信頼できる鏡だということだ。