給料4割カットはエグすぎるって!「ええっ」「話が違う…」動揺する従業員に社長が語った〈説得の言葉〉【マンガ】

三田紀房の起業マンガ『マネーの拳』を題材に、ダイヤモンド・オンライン編集委員の岩本有平が起業や経営について解説する連載「マネーの拳で学ぶ起業経営リアル塾」。第35回では資金調達の2つの手法について解説する。

「給料4割カット」宣言に従業員はショック

 Tシャツ専門店「T-BOX」の出店計画について意見が合わず、主人公・花岡拳の会社を離れた幹部・日高功。ほかの幹部メンバーが日高の家を訪れるも、あいにくの不在。そこで幹部らは3人で居酒屋に入り、会社の状況を憂いつつ、酒を酌み交わした。

 経理担当の菅原雅弘は、1号店である渋谷店の売り上げが伸び悩んでいることから、銀行から理想的な融資を得ることができないと状況を語る。

 それに対して縫製スタッフを統括する片岩八重子(ヤエコ)は不安を漏らすが、ホームレス出身の幹部である大林隆二は、「資金のほうはそんな心配ないと思いますよ」と語るのだった。

 大林が語るのは、投資家・塚原為ノ介の存在だ。塚原はT-BOX事業を立ち上げる花岡たちに「10人のホームレスを雇って事業を立ち上げる」という条件のもと、1億円の出資をしている。花岡が頭を下げれば、塚原から追加での出資を受ける事ができるため、今後の事業は安泰だというのだ。

 しかし現実はそう甘いものではない。花岡は金策に走るも、想定どおりの融資をうけることができず、結果として当面の生産調整や給料の4割カットを社員に求める。

 突然の提案に従業員は「ええっ」「そんな、お給料まで…」「話が違う」と動揺。ヤエコは塚原から出資を受けて出店費用をまかなうことを求めるが、花岡は「それはできない」とヤエコの意見を否定するのだった。

「知人からの出資」に潜むリスクとは?

漫画マネーの拳 4巻P183『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク

 花岡は銀行からの融資について、「資産を担保で差し出すので、心理的には対等だ」と語り、一方で「知人(ここでは塚原のこと)からの出資というのは、自由を担保に金を借りることだ」とヤエコたちにそのリスクを説く。

 本編では漫画の面白さを優先して説明を簡略化しているが、要はスタートアップなどで用いられる株式会社のデットファイナンス(融資による資金調達)とエクイティファイナンス(株式発行による資金調達)の違いを語っているのだ。

 デットファイナンス、つまり融資であれば、不動産などの資産を担保にするため、返済ができなければ担保を取り戻せない。逆に言えばしっかり返済さえすれば、企業の経営権などに資金提供者の影響が及ぶことがないわけだ。

 しかし塚原のように出資、つまり企業の株の一部を取得し、その株の価格にあった資金の提供を受ける場合、渡した株の割合に応じて、出資者が企業の経営に関与することができるようになる。出資者に対して資金の返済義務はないが、会社の意思決定権を渡すことにもなりえるのだ。

 企業が発行する全株式における特定株主の保有株数の比率を「持ち株比率」という。

 持ち株数と議決権の異なるケースなどを除いて大まかに言えば、持ち株比率1%で株主総会での議案提案が可能になり、33.4%以上では特別決議(会社の重要事項に関わる決議)の拒否権を持つことになる。

 さらに50%超あれば、普通決議(役員人事などの決議)の単独可決権を持つことができる。そして66.7%以上あれば、特別決議も単独可決が可能になるため、完全な支配権を持つことができる。

 スタートアップの世界では「資金調達」がニュースになりがちだが、それは「株式を手放すという大きなリスクを取ってでも、急速な成長を目指す」という、ある種の“決意表明”でもあるのだ。

 銀行の融資獲得のため、渋谷店の増収を狙う花岡たち。次回、メディアの助力を得ようとするが、そこでもまた課題にぶち当たることになる。

漫画マネーの拳 4巻P184『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク
漫画マネーの拳 4巻P185『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク