減税→経済成長→財政健全化?世界の潮流に逆行する高市内閣が目をそらす「社会保障改革の核心」Photo:Pool /gettyimages

高市早苗首相の経済政策「サナエノミクス」がフォーカスされる一方、年金や医療、介護保険などの社会保障制度を見直す「国民会議」にも注目すべきだ。現行制度は、基本的に人口増加を前提に設計し運営している。この前提が狂い始めているため、可能な限り公平に、持続可能な制度へ変革しなければいけない。痛みを伴う改革でカギを握るのが、消費税率の引き上げだ。(多摩大学特別招聘教授 真壁昭夫)

高市首相が社会保障を議論したがるワケ
金利上昇でいよいよ困難、消費税率が焦点へ

 高市早苗首相は、社会保障制度のあり方を議論する「国民会議」を設置すると表明した。会議には、超党派の政治家、経済や社会保障の専門家が参加するという。ここで言う社会保障とは、年金、医療、介護、社会福祉、公的扶助、保健医療や公衆衛生など広範囲になる見込みだ。

 わが国の社会保障制度は、重大な問題を抱えている。社会保障の負担率を国際比較すると、日本の制度は「中福祉・低負担」と評される。これは国民皆保険や年金制度などが相応に充実していて、税や社会保険料の負担が比較的低いことを指す。詳細は後述するが、自己責任の国、米国は「低福祉・低負担」である。

 なぜ日本には「福祉と負担の差」があるのだろうか?早々に結論を述べると、財政赤字として将来世代へ負担を先送りしているからだ。

 社会保障制度を支える主たるファクターは、国債発行の増加だ。つまり、主に国の借金で制度を維持してきた。過去30年間の金利は超低水準だったが、金利が上昇すれば、国債に依存した社会保障制度の維持は難しくなるだろう。

 国民的な議論をスタートさせること自体は、大きな意義がある。ただし、諸々が複雑に絡み合う問題であり、しかも国民生活に重大な影響を与えるものばかりなので、一筋縄では解決策は出ないだろう。策が出ても、実行力を伴えるかが重要だ。

 そもそも日本の制度は、基本的に人口増加を前提にして設計し運営している。この前提が狂い始めているため、現行制度では人口減少に対応できない。可能な限り公平に、社会保障関連の費用を負担し、持続可能な制度へ変革しなければいけない。

 そのためには、何が必要か。高市政権は、痛みを伴う改革から逃げず、「消費税率の引き上げ」という難題に真正面から取り組まなければいけない。さらに、高齢者の医療費負担や医薬品の保険適用範囲の見直し(国民負担増)など、歳出も改革しなければならない。そうした必要性を国民に伝え、議論を重ねられるか、その胆力が問われることになる。