新刊『EXPERT 一流はいかにして一流になったのか？』（ロジャー・ニーボン著／御立英史訳、ダイヤモンド社）は、あらゆる分野で「一流」へと至るプロセスを体系的に描き出した一冊です。どんな分野であれ、とある9つのプロセスをたどることで、誰だって一流になれる――医者やパイロット、外科医など30名を超える一流への取材・調査を重ねて、その普遍的な過程を明らかにしています。今回は一流だけが知っている感覚の正体について『EXPERT』の本文から抜粋してお届けします。（構成／ダイヤモンド社・森遥香）
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感覚の正体
感覚にも独自の特性がある。たとえば触覚には、視覚や聴覚にはない即時性がある。視覚や聴覚は「遠隔知覚」とも呼ばれる。私がだれかを見ても、相手も私を見るとはかぎらないし、こちらが相手の声や音を聞いていても、相手がこちらの声や音を聞いているとは限らないということだ。視覚や聴覚は一方通行で成り立つことがある感覚だと言える。他方、触覚は即時かつ相互的な「近接知覚」である。私が何かに触れた瞬間に、その何かも私に触れ返す。それは対象が生物でも無生物でも同じで、触覚においてはつねに双方向のフィードバックが生じる。
医療の現場では、触覚のこうした特性が特にはっきりと現れる。意識のある患者を診察するとき、患者は必ず医師に触れられていることを認識する。それを意識させずに診察することはできない。これは医師にかぎらず、人と関わる仕事全般に当てはまる。相手から情報を受け取るとき、自覚していなくても、自分も相手に何らかの情報を発信している。駆け出しの美容師だったころのファブリスも、客の髪を洗いながら、自分自身に関する何らかの情報を客に伝えていたのだ。
自分が扱っている対象に気づくには、感覚を研ぎ澄まさなくてはならない。それには鍛錬が必要だ。私たちは往々にして感覚を眠らせ、情報を遮断してしまう。見えているのに見ておらず、聞こえているのに聴いておらず、触っているのに感じていない、ということは珍しくない。気づくというのは、いま、ここ、を意識して注意を払うことだ。同時に、材料と自分の交差にも注意を向けることだ。
（本記事は、ロジャー・ニーボン著『EXPERT 一流はいかにして一流になったのか？』の抜粋記事です。）
熟達をめざす全ての人のための至高の書！
『EXPERT 一流はいかにして一流になったのか？』（ロジャー・ニーボン＝著、御立英史＝訳）
一流の「感覚」を言語化した一冊！
「エキスパート」、つまり「何かの分野で一流になった人」は、どのような経験を積んできたのでしょうか？
『EXPERT 一流はいかにして一流になったのか？』は、「何かの分野でエキスパート＝一流になる」ための普遍的なプロセスを解き明かした一冊です。
本書では、世界有数の理工系名門大学の一つ、インペリアル・カレッジ・ロンドンの外科教育学教授であるロジャー・ニーボン氏が、30名を超える一流を徹底調査。
外科医としての経験に加え、ジャズピアニスト キース・ジャレット、ファッションデザイナー マリー・クヮント など、著名人も交えた一流たちの成長過程が具体的なエピソードとともに紹介されます。
「達人が作ったものや達成した結果に触れることはあっても、そこに至る過程を見ることはない。（中略）しかし、達人になりたければ、その長い過程を経なければならない。この本は、その過程について述べる」という前書きのとおり、一流に至るまでのプロセスが具に言語化されています。
本書の内容
序章 忘れられた学びのかたち
PART0 BE AN EXPERT 「エキスパート」になる
第1章 一つの物事を極めるということ
第2章 すべての仕事の根幹をなす「学び」を考える
PART1 APPRENTICE 見習いとして経験を積む
第3章 ひたすら繰り返す
第4章 感覚を研ぎ澄ます
第5章 空間を整える
第6章 失敗を経験する
PART2 JOURNEYMAN 職人として高みを目指す
第7章 自分から他者へ
第8章 自分の声を育む
第9章 即興を学ぶ
PART3 MASTER 達人となり「教える」
第10章 新たな道を拓く
第11章 伝える
終章 なぜ「熟達」が大切なのか
