リーダーはどのように学び、成長するのか。マクドナルドCEOやゴールドマン・サックス元会長などの経営者、スポーツ界のトップ選手、ウォーレン・バフェットに代表される専門分野のエキスパートなど世界の成功者たちの知恵をまとめた実践の書が『Learning 知性あるリーダーは学び続ける』だ。
本書の監訳者であり、一橋大学特任教授、経営学者の楠木建氏は「世界のリーダーの叡智と経験に満ちた、いまだからこそ読むべき“座右の書”だ」と述べている。本記事では、楠木氏にインタビューを実施。生成AI時代に我々が直面するリスクと「学びの本質」について聞いた。(取材・構成/小川晶子)

【当てはまる人が多すぎる】「ChatGPT」を使って損をしている人の特徴・ワースト1Photo: Adobe Stock

学習能力の本質の理解が重要になる

――楠木さんは『Learning 知性あるリーダーは学び続ける』の「監訳者まえがき」の中で、「これからの生成AI時代にあって、学習能力の本質についての理解はますます重要になって来る」と書かれています。

楠木建氏(以下、楠木):生成AIが仕事と生活に浸透するなか、僕たちは学習能力の根本を喪失するリスクに直面していると思うんですよ。
もちろん生成AIは便利な道具で、使いこなすスキルは必須と言えます。
しかし、あまりにも便利であるがゆえに、一次情報に触れる機会が少なくなっていますよね。AIに質問すればすぐに答えが返ってくるわけですから。
AIから答えを引き出すには、対人スキルも必要ありません。

本書の中で著者のデヴィッド・ノヴァク氏は、こう言っています。

私は、対人スキルを磨くこととアクティブ・ラーナーであることは分かちがたいものだと考えている。アイデアに対して好奇心を抱き、心を開き、価値を見出すことは、人間に対して好奇心を抱き、心を開き、価値を見出すことである。それはお互いを信頼し、相手の前向きな意図を信じることだ。

アクティブ・ラーナーとは、自らアイデアや知恵を探し求め、それを行動や実行に結びつける人のことです。
本書は、成功したリーダーたちの習慣は「学ぶこと」だとしているわけですが、著者がとくに強調しているのは現場での学習です。
対人スキルを磨き、相手を信頼し、現場・現実・現物を直視することがアクティブ・ラーナーの条件なのです。

正解のない問題について考える

――学習能力の本質を理解している人は、生成AIもうまく活用しつつ、現場での学習を大事にしていくことができますが、そうでない人はAIを使って学んだりAIに考えさせたりするかもしれないですね。

楠木:この本にあるような「価値ある学び」とは、ほとんどが正解のない問題について考えることです。

たとえば、ペプシの工場の業績改善のエピソード。
著者は、ペプシの工場の中で最も業績が悪い工場を経営課題を学ぶのに最適な場所だと思って訪問しています。現場のリーダーたちの声に耳を傾けると、彼らの不満の下にたくさんの良いアイデアがあることがわかります。
こうした課題には正解があるわけではありません。

AIには正解のあるものについて質問すれば効率よく答えが得られますが、そうでない場合に「思考の代替」にはならないというのが僕の考えです。

技術発展の功罪

楠木:ただ、多くの人がそうやってAIを使いそうな気がするんですよ。

我々はすでに似たことを経験しています。
かつては調べ物や情報の整理にはものすごく時間がかかりましたが、インターネットの登場によって格段に効率が上がりました。
情報のコピー&ペーストができるようになり、情報量も格段に増えた。

その一方で、人間の書く力は飛躍的に衰退したと思います。
そのおかげで僕も「文章がうまいね」なんて言われるようになったんです。僕からすると、周りの人が能力を落としただけなんですけどね。
技術とは、人間がやってきたことの外部化ですから仕方ないことです。自動車に乗るようになって人々の足腰が弱まったのと同じです。
多くの人が生成AIに思考を代替させるほど、人々の思考力は弱まっていき、僕の商売は繁盛するのではないかと期待しています(笑)。

あらためて、「いま自分は何のために生成AIを使っているのか」
目的を常に意識しておくことは重要だと思います。

(※この記事は『Leaerning 知性あるリーダーは学び続ける』を元にした書き下ろしです。)