「経営学の父」と呼ばれるのは誰か、あなたは即答できますか?
その名は――ピーター・ドラッカー。
彼が残した言葉は、時代を越えて世界中の経営者やビジネスパーソンの指針となっています。なぜ没後20年近く経った今も、ドラッカーは読み継がれ続けるのか。
『かの光源氏がドラッカーをお読みになり、マネジメントをなさったら』の著者である吉田麻子氏に、現代にこそ響くドラッカーのメッセージを伺いました。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局 吉田瑞希)
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理想的なコミュニケーションとは
――働く女性の中には、「上司や同僚との関係づくり」について悩んでいる方も多くいらっしゃいます。ドラッカーの視点から見ると、どんなコミュニケーションが理想的だと思われますか?
吉田麻子(以下、吉田):ドラッカーは『マネジメント』の中でこう言っています。
「コミュニケーションとは知覚である」
「コミュニケーションを成立させるのは受け手である」
つまり、「メールで送りました」「口頭で伝えました」だけでは、真のコミュニケーションは成立しません。
その情報は相手に届いたか。認識されたか。つまり、相手がその情報をどう“知覚”したか。そこまで含めて、初めてコミュニケーションが完成するのです。
ここに、女性らしいこまやかな感性が大きな力を発揮します。
たとえば、「先日お送りしたメール、ご覧いただけましたか? 要件だけで失礼しました。お忙しいと思って念のためですが…」と、デスクの横を通りながらそっと声をかけてみる。
あるいはその逆に、口頭で伝えた内容を、「先ほどはお忙しいところ立ち話で失礼いたしました。お伝えした件を念のため箇条書きにしてメールでもお送りしますね」と、フォローのメールを添える。
このような一手間は、単なるマナーではなく、相手の“知覚の仕方”を尊重する行為です。
女性が職場で「潤滑油」として関係を整えていけるのは、こうした小さな確認作業を、日々の業務の合間に自然に行っているからかもしれません。
――なるほど。ちょっと面倒でも「相手への尊重」を「行動で示す」のが重要なのですね。
信頼を築くためにするべきこと
――では、信頼をどんどん深めていくためにはどうすればよいのでしょうか。
吉田:ドラッカーは『経営者の条件』で、「人には『読む人』と『聞く人』がいる」とも述べています。
つまり、人によって受け取りやすいコミュニケーションの形は異なるということ。
相手のワークスタイルや理解の傾向を観察し、最も伝わる方法でメッセージを届けることが、信頼のパイプを太くしていきます。
さらに、ドラッカーはこうも指摘しています。
「発し手と受け手の双方が知覚し共有することのできるものに焦点を合わせなければならない。しかも受け手がすでに動機づけられたものに焦点を合わせなければならない」
つまり、ただ自分の言いたいことを伝えるのではなく、“相手が関心を持っていること”や“相手が動機づけられている領域”に焦点を合わせることが大切です。
ここでドラッカーが重視したのが、「自己目標管理」という考え方です。
部下は上司に対して、「自分は組織全体や所属部門に、どんな貢献をなすべきであると考えるか」を明らかにする。そうして互いの目標と貢献をすり合わせることで、初めて真のコミュニケーションが生まれます。
そしてドラッカーはこう続けています。
「同じ事実を違ったように見ていることを互いに知ること自体が、コミュニケーションである。」
この言葉は、なんと深いのでしょう。
“違い”をなくすのではなく、“違いを共有する”こと。そこに、成熟した人間関係の基礎がある。
ドラッカーの思想は、職場だけでなく、人生そのものの対話に通じているように思います。
お互いに「なすべきことは何か」を確認すること。それは職場のコミュニケーションの中核となりうる行為であり、女性ならではの感性でこそ磨いていける“信頼づくりのセンス”なのかもしれません。








