従業員に考えることを許さなかったユニクロ創業期

 パキスタンのラホール工科大学のカンワル・イクバル・カーンらが発表した論文『恩恵か不運か:専制的リーダーシップの再検討(Boon or Misfortune: A Review of Autocratic Leadership)』(Journal of Management and Administrative Sciences, 2021)は、独裁的経営者が組織にもたらす功罪を精密に分析した。そこではこう結論づけられている。

“Autocratic leadership is good for new and inexperienced employees but it will stock the innovative ability of the employee, reduce self-motivation and employee motivation towards organizational goals and objectives.”
(専制的リーダーシップは、新人や経験の浅い従業員には有効だが、やがて従業員の創造力を押さえつけ、意欲を奪う)

 つまり、トップダウン経営は「初期成長期の武器」であるが、組織が成熟すれば「足かせ」になるということである。柳井氏が「喰ってかかった」冒頭の怒りは、実は一流のリーダーの誰もが通る危険な通過地点だったと言うことになる。

 柳井氏のすごさは、そこからの豹変だ。

 柳井氏は自らの過ちを公然と語り、経営スタイルを変化させた。誤りを認めることは恥ではない。むしろ、それを実行できるのがリーダーの成熟だ。人を率いるとは、正しさを競うことではなく、変わる勇気を持ち続けることなのである。

 ユニクロの創業期は、従業員にとっては「命令と服従」の時代だったのかもしれない。

 店舗数を拡大し続けるためには、全員が同じ方向を向き、同じ速度で動かねばならない。だから柳井氏は、社員に「考える」ことを許さなかった。考える前に手を動かせ、というのが信念だった。

 だが、それは最短距離のように見えて遠回りである。