会社を伸ばす社長、ダメにする社長、そのわずかな違いとは何か? 中小企業の経営者から厚い信頼を集める人気コンサルタント小宮一慶氏の最新刊[増補改訂版]経営書の教科書』(ダイヤモンド社)は、その30年の経験から「成功する経営者・リーダーになるための考え方と行動」についてまとめた経営論の集大成となる本です。本連載では同書から抜粋して、経営者としての実力を高めるための「正しい努力」や「正しい信念」とは何かについて、お伝えしていきます。

【経営者なら知っておきたい】「目的」と「目標」の違いとは?Photo: Adobe Stock

企業の目的とは何か?

 今回は、経営者にとって大切な「目的」と「目標」の違いについて説明します。しっかりと理解してください。そもそも「目的」とは何でしょうか。それは「存在意義」です。「目標」とは、その通過点であったり、目的達成の手段のことです。

 例えば、私の経営コンサルタントとしての「目的(=存在意義)」は「かかわる人に成功していただくこと」です。これは何も良い恰好をしているわけではなく、かかわる方たちが成功されれば、私の会社や私の成功につながるからです。

 一方、「目標」としては、「100冊単著で出版する」ということでしたが、おかげさまで10年以上前にその目標は達成しました。しかし、だからといって目的は達していません。私が現役で働く限り「かかわる人に成功していただく」という目的は、なくならないのです。これで、目的と目標の違いは分かっていただけたかと思います。

 それでは、企業の目的とはなんでしょうか?

 本来、企業は良い商品やサービスを社会に提供し、お客さまに喜んでいただくことを、目的の一つとしています。それから、それを通じて働いてくれる仲間を幸せにすることも、目的の一つです。地域社会に貢献することも存在意義です。企業の「目的」です。

 ピーター・ドラッカー先生は「(独自の商品やサービスを提供することで)特有の使命を果たす」ことと「働く人を活かす」ことを挙げていますが、上記と同じことです。

 その目的達成のために、お客さまに喜んでいただけるような商品やサービスを提供して、今年は「50億円の売上高をあげよう」とか、その結果「2億円の利益を出す」というのは、「目標」なのです。東証プライム上場も目標です。

 つまり、「50億円売ろう」というのは、50億円分良い仕事をしてお客さまに喜んでいただこうということ。それだけの評価を得ようということです。

 それを目標に設定することは、社会に貢献しようとする目的と何一つ矛盾しないし、良い仕事をしようとするとき、その尺度として「50億円分売れるくらい良い仕事をしよう」と考えるのが目標の役割でもあります。

多くの会社では、
数字の目標が目的になっている

 ところが、多くの会社が間違ってしまっているのは、「50億円売ろう」「2億円の利益を出そう」という、本来なら「目標」とすべきことが、「目的」化していることです。

 これだと、部下に対して「数字を出してこい」という話になってしまいます。そうなれば、「3日で120億円の利益を出せ」と社長が部下に命じて、結果として完膚なきまでに分解された東芝の例を出すまでもなく、経営がおかしくなり、働いている人が疲弊するのです。

「良い仕事」をし「お客さま第一」を実践すること、それを通じて働く人を活かし、社会に貢献することを目的にできるかどうか、さらに目的にし続けられるかどうか。ここが働く人をルンルン気分にし、会社が継続的に繁栄するかどうかの大きなポイントなのです。

 以前にもお伝えしたように、私の人生の師匠は99歳で亡くなった藤本幸邦老師(曹洞宗円福寺)ですが、よく私に「小宮さん、お金を追うな、仕事を追えだよ」と私を戒めてくれました。

「仕事」、それもお客さまが喜んでくれるような「良い仕事」を提供することが、私にとっても、そして誰にとっても目的なのです。

正しい考え方さえ持てば、
儲かる会社に変わる

 世の中が求めているのは、会社の売上高や利益の数字ではなく、「良い仕事」なのです。大切なことなので、何度も繰り返しますが、売上高や利益は評価であり、結果なのです。

 違う見方をすれば、「お客さま第一」を目的ではなく儲けるための手段と考えてしまうと、会社は一時的には儲かっても、いずれうまくいかなくなってしまいます。

 そんなことは理想論だと思う人がいるかもしれません。ある程度ビジネスをやっている人は特にそう思うかもしれませんね。

 でも、そう思っているうちは、従業員も働いていても楽しくないし、本当には儲かってはいないはずです。経営者自身もお金のためだけに働いていて、たいして満足感を得ていないですし、それでいて、たいして稼いでいないのです。

 その最大の理由は、考え方が間違っているからです。正しい考え方さえ持てば、経営者も従業員もルンルン気分で働けますし、そして結果として十分に儲かるのです。

(本稿は[増補改訂版]経営者の教科書 成功するリーダーになるための考え方と行動の一部を抜粋・編集したものです)

小宮一慶(こみや・かずよし)
株式会社小宮コンサルタンツ代表取締役会長CEO
10数社の非常勤取締役や監査役、顧問も務める。
1957年大阪府堺市生まれ。京都大学法学部を卒業し、東京銀行(現三菱UFJ銀行)に入行。在職中の84年から2年間、米ダートマス大学タック経営大学院に留学し、MBA取得。帰国後、同行で経営戦略情報システムやM&Aに携わったのち、91年、岡本アソシエイツ取締役に転じ、国際コンサルティングにあたる。その間の93年初夏には、カンボジアPKOに国際選挙監視員として参加。
94年5月からは日本福祉サービス(現セントケア・ホールディング)企画部長として在宅介護の問題に取り組む。96年に小宮コンサルタンツを設立し、現在に至る。2014年より、名古屋大学客員教授。
著書に『社長の教科書』『経営者の教科書』『社長の成功習慣』(以上、ダイヤモンド社)、『どんな時代もサバイバルする会社の「社長力」養成講座』『ビジネスマンのための「数字力」養成講座』『ビジネスマンのための「読書力」養成講座』(以上、ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『「1秒!」で財務諸表を読む方法』『図解キャッシュフロー経営』(以上、東洋経済新報社)、『図解「ROEって何?」という人のための経営指標の教科書』『図解「PERって何?」という人のための投資指標の教科書』(以上、PHP研究所)等がある。著書は160冊以上。累計発行部数約405万部。