個人の豊かさだけではダメ!道路陥没事故が示す現実

――かつては、生活基盤がしっかりしていること自体が豊かという認識があったように感じます。

 まさに今、その生活基盤が脅かされているように感じます。

 2024年、埼玉県八潮市で突然道路が陥没し、大きな被害が出たことは記憶に新しいかと思います。インフラの老朽化を見過ごしてしまった背景には、そこに人手が回らないという現実があります。これまでは“お金がどう動くか”だけを考えていれば経済活動が成り立っていました。それは、人手が十分に足りていた時代だったからです。ところがこれからはそうはいきません。人が働き、支え合うことで社会が成り立っているという当たり前の事実を、改めて見つめ直す必要があります。あの事故は、まさに今の経済の実態を表しているニュースだと感じました。

 経済を語るとき、お金の動きばかりに目が向きがちですが、これからの私たちの生活を考えるうえで大切なのは、むしろあの事故が示した現実なのかもしれません。

 労働者不足がさらに深刻化していくことを考えると、個人が「お金さえ貯めておけば安心」という時代ではなくなりつつあります。社会の課題として、どう支え合い、どう分かち合うかを考えていく必要があります。

――労働力不足についてはあちこちで聞くようになりましたが、今に始まったことなのでしょうか。

 労働力の問題でいうと、日本の生産年齢人口はすでに30年前にピークを迎えています。その後も少子高齢化が進んでいるのにもかかわらず、「なんとかなる」と楽観視されてきました。それを支えてきたのが、生産効率の向上と、女性の労働参加率の上昇です。

 一方で、他の先進国と比べても、日本の家事・育児の労働は長いというデータがあります。さらに6歳以下の子を持つ家庭においては、女性の負担がかなり重く、男性が家事や育児に費やす時間の5倍以上というデータもあります。

 家事も育児も担いながら、女性たちがこれ以上、外で働く時間を増やすのは難しい。「仕事も家庭も、もう限界だ」と悲鳴が上がっている状況なのです。しかし、その切実さが、社会全体の議論や報道の中でどれほど共有されているかというと、疑問が残ります。