たうち・まなぶ/お金の向こう研究所代表・社会的金融教育家。2003年ゴールドマン・サックス証券入社。日本国債、円金利デリバティブなどの取引に従事。19年に退職後、執筆活動を始める。著書に「読者が選ぶビジネス書グランプリ2024」総合グランプリとリベラルアーツ部門賞をダブル受賞した『きみのお金は誰のため』(東洋経済新報社)、『お金のむこうに人がいる』(ダイヤモンド社)、高校の社会科教科書『公共』(共著)などがある。 Photo:Diamond
株価が史上最高値を更新し、景気回復が叫ばれる一方で、生活実感との乖離は広がっている。作家で社会的金融教育家である田内学さんの新著『お金の不安という幻想』(朝日新聞出版)は、「お金の不安は自己責任」という思い込みを問い直し、社会構造の変化を見据える。「豊かさ」の定義が揺らぐ今、他人のモノサシではなく、自分の軸で生きるために必要な視点とは?(フリーライター 樋口可奈子)
「株価の上昇=豊かな生活」ではない
――2025年10月27日に、東京株式市場で日経平均株価が史上初めて日経平均5万円超えをつけ、ニュースでも「景気回復」ムードが強まっているように感じます。このような数字が示す好景気と生活実感との間にあるギャップを、どうご覧になっていますか?
今の状況をよく見ると、私たちの生活を著しく向上させるような出来事が起きているわけではありません。それでも株価がよく動くのは、結局「これから良くなるだろう」と先回り買いをしているから、という面が大きいのだと思います。
2024年7月に日経平均株価が最高値を更新した際、金融業界の人たちは口をそろえて「景気は良くなっている」と言いました。確かに、株価だけを見ればそう感じるのかもしれません。ところが、僕がSNSで行ったアンケートでは、「生活が上向いている」と答えた人はわずか10%ほどでした。株価の上昇と、生活の豊かさは必ずしもイコールではないと感じています。
そもそも、「豊かさ」とは何を指すのでしょうか。
物質的な豊かさだけで見ても、最終的に必要なのはお金そのものではなく、モノやサービスです。
「インフレに勝つために資産運用しましょう」と言われても、コメがスーパーの棚になかったら、お金がいくらあったとしても手に入りません。今すでに起きている人手不足が深刻化すれば、これからはお金よりも“モノやサービスの確保”が課題になっていくでしょう。地方ではすでに公共交通が減便になったり、行政サービスの維持が難しくなっています。







