僕らの時代の新日本はそういう世界ではなく、プロレスとして最低限の着地点だけは自分で想定していましたが、あとはナチュラルでした。オーちゃんもプロレスはそういうもの(ナチュラルが基本)だと猪木さんに教わってるので、そうやりたいんですが、橋本選手は先輩だからやはりオーちゃんも従わざるを得ない。そうするとUFOでやっていた格闘技の動きもできないですし、緊張感のある試合にもならないですから、それを打破したいと。それならば、いちばんいい方法は、着地点はプロレスだけれども、あとはナチュラルにするということだったんです」
最初からある程度の騒動は
想定していたが…
この試合で佐山は、猪木が小川に対してどんな策を授けたか、具体的には聞いていないが、 猪木の意図もそこにあったのではないかと語る。
「プロレスはお客さんに見せるものなので、多少の決まりごとはあってしかるべきですが、それをあまりにもやりすぎると学芸会になってしまうんです。そうなるとナチュラルな動きだったり、格闘技の動きというものができない。だから新日本が何を言ってきても、こちらはナチュラルでいけばいいですし、それで試合前は控室もシャットアウトしたんです。
ただ、猪木さんはおそらく、そこまで噛み砕いて説明してはいないはずです。オーちゃんに檄を飛ばす意味も含めて、『あんなプロレスでいいのか?』『やっちゃえ!』みたいな感じで言ったんだと思います。それをオーちゃんが『あっ、やってもいいんだ』と、そのまま受け取ってしまったのだと思います」
猪木の言葉は時に“スフィンクスの謎かけ”とも言われるように、抽象的なものが多い。佐山のように若手時代から猪木の付き人を務めた人間ならば、猪木が皆まで言わなくてもその言葉を自分で咀嚼して真意を感じ取ることができただろうが、そこまでの付き合いの深さがない小川にそれを求めるのは酷だったかもしれない。
「だから、オーちゃんにとっても覚悟がいったと思います。猪木さんに言われたので、『これもプロレスの一つなのか?』と思ってやったんだと思いますから。そういう意味では、オーちゃんにも罪はないんです。猪木さんが意図していたこととは少し違ったとはいえ、オーちゃん本人としては、指示されたとおりのことをやっただけのはずですから」







