すでに始まっている日本への攻撃
秋山 実際に日本も軍事的なサイバー攻撃を受けているのですか。
松原 ウクライナと日本・台湾の大きな違いの一つが海底ケーブルへの依存です。日本と台湾は、通信の99%以上を海底ケーブルに頼っています。
海底ケーブルは自然災害や漁業などが原因で切れることがあります。しかし近年、台湾周辺での海底ケーブル切断が頻発し、他の地域より頻度が高い。有事の際に通信が使えなくなると、軍の活動だけでなく、通常の経済活動にも打撃が及びます。
秋山 ネットがなければ、ほとんどの人が仕事ができなくなりますよね。
松原 中国系ハッカー集団「ボルト・タイフーン」の動きも心配です。数年前からアメリカのエネルギー、通信、運輸、水道などの重要インフラ企業のネットワークに侵入しています。有事の際にインフラ機能を止めることで社会の混乱を引き起こし、意思決定を阻害し、米軍の展開の妨害が目的だろうと指摘されています。
秋山 米国だけが標的なのですか。
松原 いいえ。インドのインターネットサービス事業者、シンガポールの大手通信事業者シングテル(シンガポール・テレコム)にも侵入していたと昨年報じられています。
また、ボルト・タイフーンと特定はされていませんが、中国系ハッカー集団が、通信など台湾の重要インフラ企業に類似した手口で侵入していたと、今年3月、米大手IT企業「シスコ」が報告書を出しています。
台湾の隣国で、米国の同盟国である日本もこうした動きに警戒すべきです。
沖縄にはすでに侵入済み?
秋山 日本もサイバー攻撃を受けているとの兆候はあるのですか。
松原 実は、今年、元米サイバーコマンド司令官のポール・ナカソネ陸軍大将(退役)が、沖縄の琉球朝日放送のインタビューを受け、「ボルト・タイフーンが沖縄にも入り込んでいると考えています」「ボルト・タイフーンは那覇の停電を引き起こしたり、沖縄の経済に影響を与えたりすることができるかもしれません」と語っています。
在沖米軍は沖縄の電力の9%を使っています。米軍も日本の民間インフラが攻撃されれば、動きを封じられる可能性もあるわけです。
秋山 サイバー空間では、台湾有事の前哨戦が始まっているということですか。
松原 その可能性があります。
ウクライナの教訓として言えるのは、有事になってから慌てて対応するよりも、平時のうちに有事シナリオを業界横断で検討し、サイバー攻撃や物理的な攻撃への対処法について頭の体操だけはしておいた方が良いということです。
ただ、平時から有事の備えをし、そのためのリソースを割くのは容易なことではありません。だからこそ、より多くの人にウクライナ企業の教訓と台湾有事の問題に関心を持っていただくことが必要です。
秋山 遠い国の出来事だと思っていても、実は、ウクライナから学べることは、今日、明日の日本の危機に役立つことが多いのですね。
(プリンシプル・コンサルティング・グループ株式会社 代表取締役 秋山 進、構成/ライター 奥田由意)







