アサヒもアスクルも無印良品も…なぜサイバー攻撃が増えたのか、IT効率化の「大きな弊害」とはアスクルのランサムウェア感染によるシステム障害の影響で「無印良品ネットストア」も受注・出荷停止した。同ストアの配送はアスクルの関連会社が委託していたからだ。サイバー攻撃による影響が広範囲に及んでいる Photo:PIXTA

「スーパードライ」が出荷できなくなったアサヒビールに続いて、通販大手「アスクル」や「ロハコ」もサイバー攻撃を受けた。この影響で人気ブランド「無印良品」のネットストアも一時停止中だ。なぜ世界でサイバー攻撃が増えているのか。ITによる効率化の「大きな弊害」を探る。ネットの寸断が生活に深刻な影響をもたらす今、アサヒの事例は決して他の企業にとって他人事ではない。(多摩大学特別招聘教授 真壁昭夫)

サイバー攻撃でビールが飲めない…
映画のような話が現実になった

「スーパードライ」などでおなじみのアサヒビールの親会社、アサヒグループホールディングス(以下、アサヒで統一)に対するサイバー攻撃が発生した。その影響は同社内にとどまらず、私たち一般市民の日常生活にも及んだ。

 同社のビールの出荷に重大な支障が出たため、飲食店をはじめコンビニやスーパーでアサヒのビールが品薄になった。欠品を補うために、アサヒのライバルメーカーであるキリンやサントリー、サッポロへの発注を増やす事例が相次いだ。

 ライバル各社は需要が急増してうれしいのかと思いきや、そう単純な話でもなかった。供給量を一朝一夕に増やすことは難しかったのだ。結果的に、今回のサイバー攻撃によってアルコール飲料や清涼飲料水の市場全体にネガティブな影響が及んだ。

 ちょうど歳暮商戦が始まったところだが、ビールギフト販売を一部取りやめる百貨店も出ている。プロ野球のクライマックスシリーズ突破後の「ビールかけ」を見送るチームもあった。

 サイバー攻撃のリスクは、アサヒだけの問題にとどまらない。取引先、消費者、株主など広範囲な利害関係者に悪影響をもたらす。アサヒに犯行声明を出した集団(詳細は次ページで後述)から攻撃を受けた企業は、ヘルスケア、金融、テクノロジーと幅広い業種だ。

 アサヒへの攻撃では「Qilin」(キリン)を名乗る集団が、ランサムウエア(身代金要求型ウイルス)攻撃の犯行声明を出している。この集団は一体何者なのか?この他にも、どんな集団がサイバー攻撃を仕掛けてくるのか?

 海外では国家を揺るがす緊急事態に陥った事例もある。米国で石油関連企業がサイバー攻撃を受けたことから、消費者向けのみならず軍向けガソリン供給まで滞る、危機的状況が発生した。

 市民の生命や日常生活に無視できない、重大なマイナス影響を与えるサイバー攻撃。ITシステムは、水道や電気と同じく必須の、社会インフラである。わが国企業は、今すぐ何をすべきか?社会の公器として責任を果たすために、経営層は古い意識を切り替え、覚悟すべきことがある。