軍と政府だけでは安全保障は守れない…経済の重要性
秋山 日本が台湾有事を想定した時、どのような準備が求められるのでしょうか。
松原 安全保障の4つの柱「DIME」の一翼を担う経済を如何に回し、経済に必要不可欠な重要インフラをどう守るかだと思います。ウクライナの重要インフラは、サイバー攻撃だけでなく、ミサイルやドローン攻撃を受け続けています。その視点は今まで日本人から抜け落ちていました。
まつばら・みほこ/NTT株式会社 チーフ・サイバーセキュリティ・ストラテジスト。早稲田大学卒業後、防衛省にて9年間勤務。フルブライト奨学金を得て、米ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院(SAIS)に留学し、修士号取得。パロアルトネットワークスのアジア太平洋地域拠点における公共担当の最高セキュリティ責任者兼副社長などを歴任した後、現職。サイバーセキュリティに関する情報発信と提言に努める。著書に『サイバーセキュリティ』(新潮社、大川出版賞受賞)、『ウクライナのサイバー戦争』(新潮新書、サイバーセキュリティアワード書籍部門優秀賞)、『ウクライナ企業の死闘』(産経新聞出版)。 Photo:Diamond
秋山 総力戦というのは、そういうことなんですね。
松原 ウクライナの重要インフラ企業の社長たちが、インフラが破壊され続け、従業員たちが殺傷され続けていく中、いかなる経営判断を下してきたのか、現場で修理・復旧作業に当たっている技術者たちが、心身を守るためにどう行動してきたのかを学んでおくことは、台湾有事に備える上で非常に有効です。
秋山 企業は物理的な攻撃に対する備えを持っていませんよね。
松原 ええ。日本が台湾有事のシナリオに軍事侵攻も想定し、その影響が先島諸島などにも及ぶと考えるのであれば、ウクライナの備えの失敗から学ぶ必要があります。
企業は安全保障の専門家ではないため、自分たちだけで有事シナリオを想定するのは不可能です。軍事侵攻前のウクライナでは、個々の重要インフラ企業が縦割りで業務継続計画の見直しをしていました。
しかし、電力・エネルギー、通信、金融、運輸は相互に依存しており、1つが止まれば、他の業種でも業務停止が起きかねません。にもかかわらず、軍事侵攻前のウクライナでは、軍、各監督官庁、重要インフラ企業が協力し、国として包括的な業務継続計画を作っていなかった。







