深く考えるより先に
巻き込まれてみよう

 以前、私が巻き込まれたものに「富裕層向け人間ドックの広告・宣伝」という仕事があります。

 依頼を受けたときは、「富裕層向け人間ドック」なんて聞いたこともなかったので不審に思いました。ただ、調べてみると「ホテルのようなクリニック」「待ち時間ゼロ」「1回数万円の点滴」……などなど、未知のサービスが広がっていて面白そうだったので、私は巻き込まれてみることにしました。

 ある日のこと、顧客調査のため、地方都市にあるその「富裕層向け人間ドック」のクリニックに行くと、いかにも高そうなアンティーク調のイスが置かれていて、それに腰かけ、キラキラしたダイヤを身につけながら点滴を打っていた女性がいました。絵に描いたような貴婦人です。

「どこか、お体の調子でも悪いのですか」

「わたくし?今日はこの点滴を打ちにきただけよ」

「その点滴は、何のための点滴なのですか」

「これはね、気力がみなぎる栄養剤。いろんな栄養剤が入っているって、先生がおっしゃっていたわ。だからすごく元気なの、わたくし」

「それはすごいですね。やっぱり効きますか」

「恋がしたくなるわね」

 最後の一言に、私は衝撃を覚えました。

 シニア富裕層は、何に強く惹かれるのだろうか。

 シニア富裕層は、一体どんな生活を送っているのだろうか。

 がぜん興味が出てきた私は、この仕事にどんどん巻き込まれることで、シニア富裕層の生活に関するさまざまな知見をストックし、発信していきました。

 するとなんと、それらを某企業のサイトのシニア向けコンテンツ記事として掲載してもらうことになりました。さらに、シニア富裕層向け分譲マンションの広告・宣伝という新しい仕事にもつながったのです。

 これも、深く考えるより先に巻き込まれてみたことで、新たな世界(貴婦人)に出合えたおかげです。

「巻き込まれる」とは、言い換えると「新しい体験をする」ことなのです。