「おじさまのお名前をお借りしてうそをつきました」
トキはフミに背を向けて、もらった給金20円をしまい、一部を別に分ける。それから出かける。終始浮かない表情のトキ。たぶん、一緒に暮らしていれば、いつもの明るさとはまるで様子が違うのは感じることだろう。窓枠から片目だけのぞかせるカットが良い。
外に出たトキはお金にシワをつける。それから彼女は三之丞(板垣李光人)を待ち伏せる。彼は相変わらず社長にしてくれとあちこちに頼んでいるようで、今日は水をぶっかけられていた。そんなしょんぼりの彼を捕まえてトキはお金を渡す。家を借りられるくらいの大金のようだ。
「ばかにしないでくれ」と三之丞は受け取らない。この間はあんなにトキに頼っていたのに。
でもまあ彼のプライドも理解して、トキは傳(堤真一)から預かっていたものだと、うそをつく。
「おじさま(傳)申し訳ありません。おじさまのお名前をお借りしてうそをつきました」
おばさま(タエ)のためにトキは女中になる覚悟を決めたのだ。少し諦めたような哀しい背中でとぼとぼと夕暮れの松江を歩いている。草花が夕日に照らされている。まるで岩井俊二の映画みたい。
たとえが古くてわからないという世代には、Z世代が好きなiPhone、それもレトロiPhoneで撮ったような「エモい写真」のような画とすればご理解いただけるであろうか。そんなトキのロケ場面と、タエと三之丞の住むあばら家のスタジオ撮影場面が、同じ色調になっていて、スタジオの照明の調整がすばらしい。
さらにすばらしいのは高石あかりのアップになったときの表情の耐久力である。吉沢亮は静止していてそこに圧倒的な感情の塊を感じさせる俳優だが、高石は煩わしくなくゆらぎ続ける才能を持っている。
夕日を背景にちょっと絶望的に笑いながら、でも仕方ないと思い直すように目を上にあげる。強烈に強くなく、やけになっている感じもあって、でも完全に捨鉢でもなく、なんとか自分を保っている。取り乱したいときはきちんと宣言するトキの自制心を含んだうえでの表現だと思われる。
時代劇の扮装なのに、そこには時代や扮装と関係なく、やりきれない日々を過ごす生きた人間がいた。









