松野家、タエを尾行する
勘右衛門はどうあっても異人が気に食わないのだろう、まだヘブンに斬りかかる。
とりあえず、一段落。トキはへなへなと腰を抜かしてしまっていた。よっぽど洋妾でなかったことにホッとしたのだろう。
洋妾でないのに20円。トキとフミと司之介が半年働いても貯まらない大金だ。運良くいい就職先が見つかったと司之介は相変わらず、のんきだ。
一方、フミは、妾にされると思ってあの部屋にひとりでいるのは、随分心細かっただろうとトキの心情をおもんぱかる。
「かわいそうに」という言葉にフミの母としての優しさが伝わってくる。ほんとうに娘を心配しているのだ。
数年前まで、妾を持つことは法的に認められていて、正妻と妾は同等の権利すらあった時代。フミとしては例えば夫が妾を持ったらしんどい気持ちになったのかもしれないが、娘が妾になったときの屈辱やら不安やらを真っ先に考えている。
洋妾が、なみ(さとうほなみ)が語るように特殊な貴賤の仕事と思われていたのだろう。つまり、異物への生贄のようなもの。忌まわしいものになってしまうという認識なのだろう。
と、そんな話をしているとき、3人はタエを見かけてしまう。変わり果てた姿になったタエに驚いて、今度は彼女を尾行する。
あばら家の縁側に大義そうに座り込むタエに、3人は言葉もない。一難去ってまた一難。
大金もらって洋妾になるのと、わずかばかりのお金のために物乞いになるのと、どっちが悲劇であろうか。









