結局、番組ではこの店主のインタビューは使われませんでした。
私は何もそのディレクターを批判しているわけではなく、テレビ人は私も含め、そういう思考に陥りがちだということです。なぜそうなるのかというと、すでに「この湖で採れるシジミは大きい」という前提で企画を出し、ロケや編集日程、放送日が組まれているために、この段階で構成を大きく変えることが難しいからです。従って、最初の筋書きどおりにインタビューを取ってくることが仕事になってしまいます。制作日程、予算に十分な余裕があれば、改めて構成を考え直すことも可能でしょうが、そういう恵まれたケースは多くありません。
ロケ現場の対処法はギリギリ?
焦りからやらせの誘惑にかられる
もちろん、何の根拠もなしに「この湖で採れるシジミは大きい」ということを企画に盛り込んだわけではなく、文献で調べたり、関係者に聞いたりなどして、根拠となる情報は取っています。しかし、このケースのように、現場に行ってみると、当初のもくろみ通りには行かない、ということは往々にしてあります。
こういう場合の対処法として、
イ 「ここのシジミは大きい」と言ってもらえませんかと頼む
ロ 「ここのシジミは大きいと聞いたのですが」と、誘導気味の聞き方をする
ハ 他に「ここのシジミは大きい」と答えてくれそうな人を探して使う
といったパターンが考えられます。
イのパターンは、本人の考えと異なることを言わせているのですから、明らかにやらせです。ロのパターンは、聞き方にもよりますが、ちょっとグレーな部分があります。ハのパターンは、嘘は言っていないわけですが、都合の良い切り取りになってしまう可能性があります。
私自身は、イのパターンはしたことがありませんし、コンプライアンスが厳しくなった現在では、テレビ業界全体としても、こういうことはまず行われていないと思います。ロやハについては、率直にいうと私にも経験があります。
この事例のように、シジミが大きいか小さいかということならそれほど大きな問題にもならないでしょうが、これが、「シジミはダイエットに効果がある」といった企画になってくると、社会に対する影響も甚大です。適当なリサーチでそういう企画を出し、いざ撮影に入ると「シジミはダイエットに効果がある」と明言してくれる専門家が見つからない、ということが起こりえます。







