しかし、放送日は迫っている。そうなると、焦って先ほどのイのような手段をとる誘惑に駆られて、やらせ、捏造などが生じやすくなる、というのは体験的に分かります。下調べも含めてじっくり時間をかけて制作すればこのような問題は起きないのですが、テレビ制作の現場は時間も予算も限られる中で、常に目新しいものを追いかけていますから、こうした問題が生まれがちなのです。

テレビが世界の中心と錯覚して
一般人をないがしろにする場面も

 次に「取材姿勢への不信感」ですが、代表的なのはメディアスクラムです。事件の被害者や災害の犠牲者の家に大挙して押しかけ、ご家族はもちろん、近所の方にも大変な迷惑をかけることがあります。また、公道などでロケをするときに、自分たちの撮影を優先し一般の人をないがしろにする、といった事例、さらには取材先に無理なお願いをして迷惑をかける、といった事例もあります。

 傍若無人な取材姿勢はSNSでもたびたび指摘されています。少し前になりますが、こんな発言が物議を醸しました。ある人が自宅に帰ろうとしたところ、自宅近くの路上でテレビ番組のクルーが撮影をしていて、通行を止められたそうです。そのことに抗議したところ、テレビの撮影スタッフから「一般の方々と我々は違うんです」と言われたのだとか。

 このいきさつがXに投稿されると、たちまち炎上しました。最終的には、番組制作会社が自社のサイトに謝罪文を掲載する事態となりましたが、この発言は、テレビ人の本音を表しているように思います。

 私自身がテレビ局にいたときの話として、こういうこともありました。番組のネタを探しているときに、世界中の珍しい消しゴムを収集している人がいる、という話を聞きつけ、取材をさせてもらえないか先方に電話で交渉をしたことがあります。

 しかし、相手の方からは「以前、別のテレビ局の取材を受けたが、勝手なことをされてとても不愉快だった。もうどこの局でも取材には応じない」と言われてしまいました。何度か頼んでみたのですが、取り付く島もありません。おそらく、よほど腹に据えかねるようなことがあったのでしょう。

 このような問題が生まれる背景として、テレビ人の中にある「自分たちを中心に世界が回っている」という意識が指摘できます。