新刊『12歳から始める 本当に頭のいい子の育てかた』は、東大・京大・早慶・旧帝大・GMARCHへ推薦入試で進学した学生の志望理由書1万件以上を分析し、合格者に共通する“子どもを伸ばす10の力”を明らかにした一冊です。「勉強が苦手だったり、勉強をしたくない子どもにもチャンスがある」こう語る著者は、推薦入試専門塾リザプロ代表の孫辰洋氏で、推薦入試に特化した教育メディア「未来図」の運営も行っています。今回は、大学の一般入試に代わってじわじわ広まっている総合型選抜について解説します。
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「総合型選抜は私立の話」?
昨今、「年内入試の割合が増えている」という話をよく耳にします。実際の割合として、私立大学全体ではすでに半数近くの合格者が総合型選抜や学校推薦型選抜といった“年内入試”で決まっているとされています。つまり、私大入試においては一般選抜一本勝負という時代は終わりつつあるのです。
ただ、多くの人はこう思うのではないでしょうか。
「それはあくまで私立大学の話でしょ?国公立はやっぱり一般入試中心で、推薦や総合型はオマケにすぎないんじゃないの?」
確かにその感覚は間違ってはいません。文部科学省などの統計によれば、令和6年度の国公立大学における、「総合型選抜+学校推薦型選抜」による入学者の割合は約18.5%です。私立大学は約59.3%なので、大きな乖離があります。
東京大学は「学校推薦型選抜」を実施していますが、定員はわずか100人。毎年約3,000人の東大合格者のうちの3%程度に過ぎません。こうして数字で見ると、「国公立大学は依然として一般入試が大多数」という印象は正しいとも言えます。
しかし、その一方で、国公立大学においても年内入試の割合は確実に増えてきているのです。従来型の「一般入試中心」の姿勢を崩し、年内入試の枠を積極的に拡大する大学が少しずつ増えてきています。
東北大学の衝撃的な方針
国公立大学の中でも特に注目すべきは、旧帝大のひとつである東北大学の動きです。東北大学ではすでに、総合型選抜による入学者が全体の約31.3%を占めています(出典:東北大入試データ)。この数字は国公立大学としては極めて高い水準であり、全国的に見ても突出しています。
そしてさらに大きな話題を呼んだのが、「2050年までに入試をすべて総合型選抜に移行する」という大学の方針です。これは学長がインタビューで明言したもので、一般入試そのものを廃止し、学力試験に加えて面接・小論文など多角的な評価を行う形に完全移行するという内容です。(出典:河北新報「東北大入試 2050年までにAO入試『総合型選抜』100%へ 学力試験から面接・小論文試験に」)
この方針が示す意味は極めて大きく、大学入試というシステムそのものの根幹を揺るがす可能性があります。
旧帝大だからこそ注目される理由
東北大学は偏差値65前後(予備校データでは61~70)と位置づけられる難関国公立大学であり、東大・京大に次ぐ旧帝大の一角です。その東北大学が一般入試ではなく総合型選抜に100%シフトすると表明したのです。
これまで「推薦・総合型入試は私立大学のみの話」と思われていたものが、難関国公立大学にも広がることを意味しています。東北大学が先陣を切ったことで、他の国公立大学にも波及していく可能性が高く、日本の大学入試全体が大きく変わる転換点になると見られています。
東北大学の総合型選抜の特徴
とはいえ、私立大学の総合型選抜と東北大学のそれは少し性質が異なります。東北大学の総合型選抜(旧AO入試)は以下の2つの方式に分かれています。
AOⅢ期:大学入学共通テストの成績を用いた選考と面接を組み合わせた方式。
どちらの総合型選抜入試においても、「推薦=学力不要」という誤解は成り立ちません。東北大の総合型選抜では、従来の学力試験もきちんと課されるのです。学力と人間性の両方を評価する仕組みだと言えます。
東北大学の事例から見えてくるのは、「学力評価の部分」と「人間性評価の部分」が融合していく未来です。知識を詰め込むだけではなく、「自分が何を学びたいのか」「どんな活動をしてきたのか」を言語化できる力が重要になります。
つまり、これからの入試では「勉強さえできれば大丈夫」という考え方は通用しなくなっていくのです。学力は当然必要ですが、それだけでは足りない。部活動や探究活動、課外活動といった経験を通じて「自分の物語」を持っているかどうかが、合否を左右する時代が到来しようとしています。
(この記事は『12歳から始める 本当に頭のいい子の育てかた』を元に作成したオリジナル記事です)




