将来有望なソフィアが
戦場に飛び込んだ理由

 正式な軍人ではないソフィアは医療支援を行うNGO団体に所属しており、軍の傘下で軍のメディックと同じ任務を遂行している。軍やNGOから給料は支払われず、あくまでボランティアとして危険な地域で活動しているという。給料が目当てで軍やNGOに入る者も少なくない中、多くの才能を持ち合わせているにもかかわらず、あえてそうしていることに驚く。

「ロシア軍がウクライナに侵攻した今、私には最前線に行かないという選択肢はなかったのです。ロシア占領下で生きるのではなく、ウクライナ人としてロシアと戦うことを選びました」

 そうキッパリと言い切るソフィアは幼い頃から好奇心の旺盛さは変わっていないという。運動神経に優れた彼女は陸上競技で実力を発揮し、負け知らずだったそうだ。

 子どもの頃、空手の稽古を受けていたソフィアに、父でフィクサー(編集部注/戦場取材の手配をするコーディネーターのこと)のボグダンは「空手を習っているからといって絶対に暴力を振るってはいけない」と教えていたという。

「“自分が危害を加えられそうになったら、迷わず攻撃して身を守れ。その後の問題は父親の俺が法律に沿って解決する”と、いつも言い聞かせていたんだ。数年前にソフィアがトラブルに巻き込まれたことがあった。彼女が相手(男性)の頭に蹴りを入れたところ、相手が意識を失って一瞬で喧嘩が終わったよ。娘はいつも自分でトラブルを解決してしまうんだ」

 スポーツだけではなく勉強もよくできたソフィアは政治、社会奉仕などに興味を持ち、優秀な成績で高校を卒業した。可能性に満ち溢れ、将来有望なソフィアが戦場へ飛び込む上で、一番の後押しとなったのは母のアーニャだ。

主婦をやめ
軍に入隊した母

 原子力を専門とする科学者を父に持つアーニャ。両親は仕事の都合で2年ほど京都に住んでいたそうだ。キーウの大学を優秀な成績で卒業後、大手スーパーマーケットに入社し、バイヤーをしていたアーニャは2014年のドンバスでのウクライナ軍と親露派武装勢力との軍事衝突をきっかけに仕事を辞め、医療ボランティアとして活動を始めた。