『ばけばけ』では、光でも影でもない部分に光を当てる

「他者が考えることを全部、受け入れちゃうほうです。それが良くないときもあるかもしれませんが、僕のやり方はこうだからという頑固さみたいなのはあまりなくて。唯一あるのは、セリフのニュアンスはできれば変えてほしくないという気持ち。それは強いほうです。

 それ以外は、例えば、いろいろな都合で構成を変えなくてはならないとき、じゃあ変えることでもうちょっと面白くする方法を探そうと考えます。『ばけばけ』では構成の変更はそんなにないですが。変更を依頼されて抵抗している時間があったら面白い方法を考えた方が早いと思うし、争い事があまり好きじゃないのもあります」

 ふじきさんが大事にしているセリフのニュアンスは独特。

 例えば、第8回で「あの」を何度も使う会話。ほかの作家にはない独自性がある。

 主人公・トキ(高石あかり)の出生の秘密を隠そうとして、養父・司之介(岡部たかし)や実父・傳(堤真一)が「あの話」「あのあの話」と「あの」だけで会話を成立させていく。本人たちは「あの」が指す意味がわかるが、外野にはさっぱりわからないという二重性もおもしろい。

「なるべく隙を見つけて、『あのあの話』みたいなどうでもいい話(笑)を書こうと思って頑張っています」というふじきさん。

『ばけばけ』は小泉八雲ことラフカディオ・ハーンの妻・小泉セツをモデルにしたトキを主人公に、八雲をモデルにしたヘブン(トミー・バストウ)との日常生活を描く。

 ヘブンが八雲のように『怪談』をはじめとしたさまざまな書籍を執筆していくサクセスものではない。何も特別なことが起こらない話を描く。いわば「光でも影でもない部分」だ。

「『怪談』を書いた小泉八雲さんとその妻の偉人伝的なものを描く方法もあったと思いますが、『ばけばけ』ではふたりの日常生活にスポットライトを当てることにしました。光でも影でもない部分に光を当てるということですね。

 第1回で家族で丑の刻参りを書いたりもしましたし、ご覧になる方のなかには、作家・小泉八雲のイメージが強くて、『怪談』に通じるような創作に関するやりとりがいっぱい出てくるんじゃないかと期待されている方もいらっしゃるでしょう。

 第5週からヘブンが登場して、いよいよ本格的に出てくるかと思ったら、あまり怪談ばなしが出てこないなあと思われているかもしれません」