「構想力・イノベーション講座」(運営Aoba-BBT)の人気講師で、シンガポールを拠点に活躍する戦略コンサルタント坂田幸樹氏の最新刊戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』(ダイヤモンド社)は、新規事業の立案や自社の課題解決に役立つ戦略の立て方をわかりやすく解説する入門書。企業とユーザーが共同で価値を生み出していく「場づくり」が重視される現在、どうすれば価値ある戦略をつくることができるのか? 本連載では、同書の内容をベースに坂田氏の書き下ろしの記事をお届けする。

「成功するプロジェクト」と「失敗に終わるプロジェクト」の意外な違いPhoto: Adobe Stock

予定外が発生しないプロジェクトなど、存在しない

 あなたが過去に関わったプロジェクトで、すべてが予定通りに進んだことはありますか?

 仕事でプロジェクトに携わったことがない方は、学生時代の文化祭や地域のイベントを思い出してみてください。おそらく、最初に決めた役割分担通りに動かない人がいたり、外部業者からの納品が遅れたりと、大小さまざまなトラブルが発生したのではないでしょうか。

 私もこれまで数多くのプロジェクトに携わってきましたが、すべてが予定通りに終わった経験は一度もありません

 これは何も私に限った話ではなく、世界中どの組織でも、計画どおりに終わるプロジェクトなど存在しません。スケジュール変更、要件の見直し、想定外のトラブル。それらはプロジェクトの宿命です。

成功と失敗を分けるのは、「失敗の扱い方」

 では、同じようにトラブルが起きても、なぜうまくいくチームとそうでないチームがあるのでしょうか?
 その違いは、失敗をどう扱うかにあります。

 成功するプロジェクトは、失敗を学びに変え、前進するための仕組みを備えています。予期せぬ出来事が起きても、それを隠さず共有し、次の打ち手をチームで考えることができるのです。

 一方、失敗を恐れ、原因を責め合うだけのチームでは、学びが生まれず、同じ問題を何度も繰り返し、プロジェクト自体がとん挫してしまうでしょう。

 つまり、失敗の有無ではなく、失敗を学びに変えられるかどうかが、成功と失敗の分かれ目です。

失敗を学びに変えるチームは、強くなる

 価値観や能力が異なる人たちが集まり、一つの目標に向かって協力するのは、想像以上に難しいものです。だからこそ、失敗を通じて得られる学びが、チームを成長させる最大の要因になるのです。

 以前、私がかつて関わった基幹システム刷新プロジェクトは、当初から混乱の連続でした。

 世界中から集まった多様なメンバーの中には、システム開発の経験がない人も多く、文化やスキルの違いから足並みが揃わない状況が続いていました。

 それでも、トラブルが起きるたびに課題を共有し、互いに助け合いながら対応を重ねるうちに、チームは確実に強くなっていきました。

 最終的にプロジェクトは完遂し、メンバーは大きく成長しました。中には、その経験をもとに後に組織の中核を担う人材となったメンバーも少なくありません。

 成功の要因は、最初から優秀な人材が集まっていたからではなく、失敗を通じて学びを構造化できたことにあったと言えます。

失敗は、未来への投資

 プロジェクトにおける成功とは、計画を完璧に遂行することではありません。

 大なり小なり、想定外や失敗は避けられないものです。重要なのは、その経験をどう活かすかです。

 プロジェクトマネジャーは、失敗を単なるミスとして終わらせず、チームの成長へとつなげなければなりません。成功するプロジェクトは、失敗を“未来への投資”と捉え、学びとして次に活かす仕組みを持っています

 もちろん、「どんな失敗でもよい」というわけではありません。

 大切なのは、チームの成長や仕組みの改善につながる“意味のある失敗”を積み重ねていくことです。その積み重ねこそが、プロジェクトを成功へと導く原動力になるのです。

『戦略のデザイン』では、戦略を成功に導くために不可欠な「失敗の定義」について、具体的な事例を交えて詳しく解説しています。

坂田幸樹(さかた・こうき)
IGPIグループ共同経営者、IGPIシンガポール取締役CEO、JBIC IG Partners取締役。早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)。ITストラテジスト。
大学卒業後、キャップジェミニ・アーンスト・アンド・ヤング(現フォーティエンスコンサルティング)に入社。日本コカ・コーラを経て、創業期のリヴァンプ入社。アパレル企業、ファストフードチェーン、システム会社などへのハンズオン支援(事業計画立案・実行、M&A、資金調達など)に従事。
その後、支援先のシステム会社にリヴァンプから転籍して代表取締役に就任。
退任後、経営共創基盤(IGPI)に入社。2013年にIGPIシンガポールを立ち上げるためシンガポールに拠点を移す。現在は3拠点、8国籍のチームで日本企業や現地企業、政府機関向けのプロジェクトに従事。
単著に『戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』『超速で成果を出す アジャイル仕事術』、共著に『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考』(共にダイヤモンド社)がある。