グループの傘下には、ウォール・ストリート・ジャーナルや「New York Post(ニューヨーク・ポスト)」「The Times(タイムズ、英国)」「The Australian(オーストラリアン)」など、世界各地で200ほどに上る多数の新聞社が入っていた。こうした著名なメディアがいずれも、深刻な苦境に陥っていた。

 広告主も読者も無料のデジタルメディアに流れていき、広告収入と購読料収入の両方が急激に落ち込んだ。質の高いジャーナリズムを維持するには多額な固定費が必要で、収益が減少すると、存続そのものが脅かされる。

 さらに悪いことに、ニューズ・コープは分権体制が進んでいて、編集長と各部門のCEOが、大きな権限と独立性を手にしていた。そのため、グループ全体として収益を回復するための取り組みが全くなされていなかった。

 各紙が独自に、利益を出していくための方策を試みていた。

 経営陣は、生き残るためには、利用者からネット記事コンテンツの料金を徴収する必要があると確信していた。

有料記事化の提案に
傘下企業のトップは難色を示す

 スミス氏の仕事は、ニューズ・コープのもともとの本拠であるオーストラリアの市場で、ネット記事のコンテンツ有料化を指揮することだった。

 収益の減少を食い止め反転させて、良質なジャーナリズムのための資金を維持するためだ。

 スミス氏は語る。「初めの頃は、大変な抵抗があった。CEOたちは、ペイウォール(有料ユーザーのみがアクセスできるコンテンツを提供する仕組み)が読者を遠ざけるのではないかと神経をとがらせていた。記者のほうでは、記事が優れているかではなく、料金を払った人がどれだけいるかで質が評価されるのではないかと恐れていた。私たちはまず、共通の目的を定めなくてはならなかった」

 スミス氏は、鍵を握っている意思決定者と順次ミーティングを持った。いずれのミーティングでも、まずは会社としての目的を取り上げた。新聞社として、企業や政治家やその他を監視し、責任を追及するジャーナリズムを重視する。