保険営業は、親類や知人にアプローチすることから始めるのが通例で、僕もそこからスタートしたのですが、“義理”で保険に入ってくれる人がいる一方で、強引に「保険を売ろう」とする僕に反発する人も多く、知人との人間関係が深く傷つくようなケースが増えていました。
そんななか、僕にとって決定的なことが起きました。
そのとき、僕は目標としていた契約件数を達成できないまま1週間を終えようとしていました。「なんとか目標を達成しなければ……」と焦っていた僕は、TBS時代の後輩に連絡をしました。保険に入ってもらおうと思ったのです。
彼は、日曜日の夕方にもかかわらず、僕と喫茶店で会ってくれました。そして、このとき僕は、「最低」のことをしてしまいました。
あろうことか、先輩と後輩の関係性を背景に、強引に契約に持ち込もうとしたのです。「契約するまで帰さない」と口にこそ出しませんでしたが、全身でプレッシャーをかけていました。思い出すと、今も、彼に申し訳なく、心が苦しくなります。
その報いは、すぐに訪れました。
翌日、僕はマネジャーに呼び出され、後輩が会社にクーリングオフを申し入れてきたことを伝えられました。愕然としました。マネジャーは多くを語りませんでしたが、「あってはならないことだ」と静かな口調で言いました。
もちろん、それもショックでした。しかし、それ以上にショックだったのは、謝罪するために後輩に電話をすると、すでに「着信拒否」されていたことです。何度かけても、二度と電話に出てくれませんでした。僕は、人間として拒否されたのです。
「どん底」で自分を徹底的に見つめ直す
これが、いわば「底つき体験」となりました。
この失敗に直面したことで、こんな営業スタイルを続けるわけにはいかないと認めざるを得なくなったのです。このときばかりは落ち込みました。そして、「何が悪かったのか?」「どうしたらいいのか?」と自問自答を重ねました。
失敗の原因は明らかでした。僕が相手の都合も考えずに、自分の「保険を売りたい」という願望を押し付けているからです。
営業マンにとって「目先の売上」は喉から手が出るほどほしいものですが、「売りたい」のは営業マンの都合であって、お客様には関係のないことです。にもかかわらず、「売ろう、売ろう」とすれば、お客様との関係性を傷つけるだけ。「売ろう」とするから「売れない」のです。そして、「売ろう」とするから「不幸」になるのです。
では、どうすればいいのか?
「売ろう」とするのをやめて、お客様に「僕という人間」を信頼していただくことに集中するしかないと考えました。
たとえ、そのときは売れなかったとしても、「保険に入るなら、金沢から入ろう」と思っていただけるような信頼関係を築くことさえできれば、その方が「保険に入ろう」と思われたときには、真っ先に僕に連絡をくださるはずです。
だから、「売ろう」とするのではなく、「僕という人間」を信頼してくださる方を、コツコツと増やしていくことを第一に考える。そういうお客様を増やすことができれば、結果的に契約をお預かりできる件数も増えるはずだと考えたのです。
そのために、僕は、自分の一挙手一投足を徹底的に見つめ直しながら、営業スタイルを抜本的に変更。試行錯誤を重ねながら、自分なりの営業スタイルを確立していくことで、営業成績が劇的に伸びていったのです。どんなにブザマな失敗であっても、その失敗に学べば、それは成功に導いてくれるのです。
(この記事は、『超⭐︎アスリート思考』の一部を抜粋・編集したものです)
AthReebo株式会社代表取締役、元プルデンシャル生命保険株式会社トップ営業マン
1979年大阪府出身。京都大学でアメリカンフットボール部で活躍し、卒業後はTBSに入社。世界陸上やオリンピック中継、格闘技中継などのディレクターを経験した後、編成としてスポーツを担当。しかし、テレビ局の看板で「自分がエラくなった」と勘違いしている自分自身に疑問を感じ、2012年に退職。完全歩合制の世界で自分を試すべく、プルデンシャル生命に転職した。
プルデンシャル生命保険に転職後、1年目にして個人保険部門で日本一。また3年目には、卓越した生命保険・金融プロフェッショナル組織MDRTの6倍基準である「Top of the Table(TOT)」に到達。最終的には、TOT基準の4倍の成績をあげ、個人の営業マンとして伝説的な数字をつくった。2020年10月、AthReebo(アスリーボ)株式会社を起業。レジェンドアスリートと共に未来のアスリートを応援する社会貢献プロジェクト AthTAG(アスタッグ)を稼働。世界を目指すアスリートに活動応援費を届けるAthTAG GENKIDAMA AWARDも主催。2024年度は活動応援費総額1000万円を世界に挑むアスリートに届けている。著書に、『超★営業思考』『影響力の魔法』(ともにダイヤモンド社)がある。








