2023年10月7日、イスラエル南部に向けてハマスが大規模攻撃を仕掛け、イスラエルは報復としてガザ地区への空爆を開始した。激しい戦闘の末2025年10月10日に一時的な停戦が成立したものの、イスラエルはその後も理由をつけて武力行使を繰り返している。国際社会の批判が高まるなか、それでもハマスへの攻撃の手を緩めないのはなぜか。その背景には、かつてイスラエルが犯した過ちが関係していた。※本稿は、共同通信外信部記者の平野雄吾『パレスチナ占領』(筑摩書房)の一部を抜粋・編集したものです。

イスラエルに抵抗するハマスを
立ち上げたのはイスラム教の聖職者

 ハマスは1987年12月、第一次インティファーダ(反イスラエル闘争)開始直後のガザ地区で誕生した。アラビア語の「ハラカト・アルムカーワマ・アルイスラミーヤ(イスラム抵抗運動)」が正式名称で、1928年にエジプトで設立されたムスリム同胞団を母体とする。

有刺鉄線越しのパレスチナ写真はイメージです Photo:PIXTA

 イスラム教の価値観に基づく社会変革を目指すムスリム同胞団は、福祉や教育活動を通じて草の根の支持を拡大し、宗教的価値観を政治に結びつけていった。

 ハマス設立の中心となったのは、イスラム教の聖職者で政治活動家だったアハメド・ヤシンだ。ヤシンは1938年、現在のイスラエル南部アシュケロン近郊のパレスチナ人の村アルジュラに生まれたが、1948年の第一次中東戦争中、家族に連れられガザ地区に避難した。

 青年期にスポーツで脊椎損傷を負い、車いす生活を送りながらもエジプトの首都カイロにあるアズハル大学でイスラム法を学んだ。1960年代以降、教育や医療、福祉を通じてガザ地区で市民の支持を集め、説教を通じて宗教的カリスマとして台頭していく。