カタール政府高官が現金でガザ地区まで資金を運んでおり、ガザ地区行政当局で働く職員の給与支払いに充てられたほか、貧困層への生活支援に使われた。さらに一部はハマスそのものにも流れ、軍事力の増強を後押しした。

 イスラエルメディアによれば、首相ネタニヤフは2019年3月の与党リクードの会合で「ヨルダン川西岸のパレスチナ自治政府とガザ地区のハマスを分離させておけば、パレスチナ独立国家は樹立できない。パレスチナ国家に反対する者なら誰であれ、ガザ地区に資金を送るだろう」と発言している。典型的な「分断統治」だった。

ガザ住民と国際社会に
柔軟な姿勢をアピール

 ガザ地区を実効支配するなかで、ハマスは現実的な政治に終始した。

 その統治はイスラム主義体制を目指すとする一方で、たとえば大学キャンパス内での女子学生へのヒジャブ(スカーフ)義務づけは市民の反発を受けて撤回し、「推奨」措置とするなど柔軟な対応を取っている。

 スウェーデンの政治学者ビヨルン・ブレンナーは「ハマス政権が選択、実践した政策は完全に柔軟で、実用的な統治表現として理解されるべきである」と指摘している(『ハマス統治下のガザ』未邦訳)。

 ハマスは2017年5月には新たな指針を発表し、1967年以前の停戦ライン(編集部注/第三次中東戦争以前の停戦ライン)を国境とするパレスチナ国家建設を求めると主張した。

 イスラエルの存在を認めず、英委任統治領全体にパレスチナ独立国家を建設するとした当初の憲章からは大きく離れ現実的なプランとなった。憲章自体を変更したわけではないとしたものの、国際社会に対し柔軟さをアピールした形となった。

 実際、筆者も取材のなかで複数のハマス幹部から「国際社会が求める1967年のラインでパレスチナ国家建設を求めるのが現実的だ」と何度も説明を聞いている。

10年近く温められていた
「イスラエル壊滅計画」

 ガザ地区の現実的な統治を進める一方、ハマスは定期的に対イスラエル武装闘争を繰り返した。