「構想力・イノベーション講座」(運営Aoba-BBT)の人気講師で、シンガポールを拠点に活躍する戦略コンサルタント坂田幸樹氏の最新刊戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』(ダイヤモンド社)は、新規事業の立案や自社の課題解決に役立つ戦略の立て方をわかりやすく解説する入門書。企業とユーザーが共同で価値を生み出していく「場づくり」が重視される現在、どうすれば価値ある戦略をつくることができるのか? 本連載では、同書の内容をベースに坂田氏の書き下ろしの記事をお届けする。

なぜZ世代は「心理的安全性」より「成長実感」を求めるのか?Photo: Adobe Stock

心理的安全性が「目的化」していないか?

 あなたの組織では、ホワイト化を進めたにもかかわらず、若手が辞めてしまうことが問題になっていませんか?

 心理的安全性の重要性が強調される一方で、現場では「優しくしているのに辞められた」と嘆く管理職も増えています。

 そもそも心理的安全性とは、安心して挑戦できるようにするための土台であり、それ自体が目的ではありません。

 もし「怒らない」「否定しない」だけが実現され、挑戦や成長につながる機会が失われているなら、それは心理的安全性の誤用であり、Z世代の離職をむしろ加速させます。

価値観の中心が「自己実現」へ

 高度成長期には、カー・カラーテレビ・クーラーの「3C」のように、“モノを持つこと”が価値の中心でした。

 その後は、旅行や食事などの“コトを体験すること”が価値となりました。

 しかし、1990年代半ば以降に生まれたZ世代は、モノもコトも不自由なく手に入る時代に育っています。

 そのためZ世代にとって価値の中心は、商品の機能性や利便性・品質といった“機能的価値”でも、満足感や愛着といった“情緒的価値”でもありません。自分の存在意義や理想像、社会的アイデンティティを体現できる“自己実現的価値”へと移っているのです。

 つまり、「何かが欲しい」「何かを体験してみたい」ではなく、「何かになりたい」という欲求こそ、Z世代の行動を大きく左右しています。

「心理的安全性」はZ世代にとって前提でしかない

 Z世代にとって心理的安全性は、「あって当然」の前提条件にすぎません。

 その上で、成長実感のない組織には魅力を感じにくくなっています

 なぜなら、彼らの周囲には常に比較材料があるからです。SNSの普及により、身近な友人だけでなく、世界中の同年代の活躍が常にタイムラインに流れ込んできます。

 さらに働き方の多様化によって、キャリアの選択肢が社内に限定されず、副業・転職・独立など幅広い道が当たり前になっています。

 こうした環境では、「自分はどれだけ成長しているか?」がはっきり見えてしまいます。

 だからこそ、安全だけれど成長できない組織は、すぐに魅力を失います

 次のような状況が1つでも思い当たるなら、危険信号です。組織のあり方を見直すタイミングかもしれません。
 ・優しくするだけで、なかなか仕事を任せない
 ・フィードバックが遅い
 ・ミスに対する具体的な指導がない
 ・仕事の意味・背景が説明されない
 ・年功序列が強く、実力が評価されない
 ・失敗ばかりを指摘され、挑戦しづらい

『戦略のデザイン』では、Z世代も活躍できる「場づくり」の方法を、具体的な事例とともに解説しています。

坂田幸樹(さかた・こうき)
IGPIグループ共同経営者、IGPIシンガポール取締役CEO、JBIC IG Partners取締役。早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)。ITストラテジスト。
大学卒業後、キャップジェミニ・アーンスト・アンド・ヤング(現フォーティエンスコンサルティング)に入社。日本コカ・コーラを経て、創業期のリヴァンプ入社。アパレル企業、ファストフードチェーン、システム会社などへのハンズオン支援(事業計画立案・実行、M&A、資金調達など)に従事。
その後、支援先のシステム会社にリヴァンプから転籍して代表取締役に就任。
退任後、経営共創基盤(IGPI)に入社。2013年にIGPIシンガポールを立ち上げるためシンガポールに拠点を移す。現在は3拠点、8国籍のチームで日本企業や現地企業、政府機関向けのプロジェクトに従事。
単著に『戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』『超速で成果を出す アジャイル仕事術』、共著に『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考』(共にダイヤモンド社)がある。