「構想力・イノベーション講座」(運営Aoba-BBT)の人気講師で、シンガポールを拠点に活躍する戦略コンサルタント坂田幸樹氏の最新刊『戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』(ダイヤモンド社)は、新規事業の立案や自社の課題解決に役立つ戦略の立て方をわかりやすく解説する入門書。企業とユーザーが共同で価値を生み出していく「場づくり」が重視される現在、どうすれば価値ある戦略をつくることができるのか? 本連載では、同書の内容をベースに坂田氏の書き下ろしの記事をお届けする。
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ジョブ型人事制度を入れることが
目的化していないか?
いま、日本企業の間で「ジョブ型人事制度」の導入が急速に広がっています。ソニーや富士通といった名だたる企業も導入に踏み切り、制度そのものが一種のトレンドになっています。
しかし、このブームの裏側で、ある深刻な問題が起きています。
それは、制度を取り入れること自体が目的化してしまい、ジョブ型人事制度が本来の機能を果たせていないことです。
あなたの会社でも、こうした状況に思い当たる点はありませんか?
明確な目的や課題設定がないまま導入しているのなら、それは危険な兆候です。
そもそもジョブ型人事制度は、トップダウン型の意思決定が一般的な欧米企業で発展した仕組みです。
私がかつて勤務していた米国企業A社では、社長の発言は即座に実行され、部門ごとの役割も明確に定義されていました。メンバー一人ひとりの職務内容もジョブディスクリプション(職務記述書)に明文化され、OKR(目標と成果の明確化)やMBO(目標管理制度)などの手法で、定量的に成果が評価されていました。
役割が明確に定義されているため、確かに組織は効率的に動けます。
しかしその反面、「決められたことしかしない」文化が根づきやすいという側面もあります。
日本企業の強みである
「現場力」が失われつつある
A社ではトップの指示は迅速に実行される一方で、部門間の自発的な連携はほとんど見られませんでした。現場からのアイデアが経営に反映される、いわゆるボトムアップもごくまれでした。
一方、日本企業の強みは、まさにこの「現場力」にあります。
メンバーや部門の業務が重なり合うことで新しい発想や協力が自然と生まれる。この“重なり”こそが、日本企業における創発の原動力です。
現場同士の自発的な気づきや連携こそが、日本企業を強くしてきました。
ところが、目的が不明確なままジョブ型制度を導入してしまうと、「自分の仕事はここまで」と線引きする風土が広がりやすくなります。
その結果、部署を越えた助け合いや、現場からの改善提案が減少してしまうのです。
もちろん、グローバル人材を採用・評価するうえではジョブ型制度は非常に有効です。
しかし、それ以外の目的で導入すれば、日本企業の最大の強みである現場の自律的な連携力を損なうリスクがあります。
そして、一度失われた現場力は、制度を変更するだけでは取り戻せません。
日本企業は「創造的統合」で勝負すべき
日本企業の本当の強みは、トップダウンの迅速な実行力よりも、現場を有機的につなぎ合わせる統合力にあります。
経済学者シュンペーターが提唱した「創造的破壊」がイノベーションの起点であるならば、日本企業が本来得意とするのは、既存の資産や知恵を再編集する「創造的統合」です。
その兆しは、すでに各地で見え始めています。
現場や地域が自らの強みを見つめ直し、異なる分野と連携し始めているのです。たとえば熱海では、古い商店街に新しいアイデアを取り入れたことで、街全体が再び活気を取り戻しつつあります。
破壊しなくても、いまあるものの組み合わせ次第で、社会は再編集できる。
それこそが、日本流のイノベーションだと言えるのではないでしょうか。
「場づくり」こそが、次の戦略になる
では、現場の力をどう活かし、組織を変革していけばいいのでしょうか?
その問いに答えるには、「場づくり」という視点が欠かせません。
部署や立場を越えて、アイデアや人が交わる「場」をどう設計するか。そこにこそ、組織が再び活力を取り戻す鍵があります。
『戦略のデザイン』では、組織変革を促す「場づくり」の手法を、具体的な事例とともに紹介しています。
IGPIグループ共同経営者、IGPIシンガポール取締役CEO、JBIC IG Partners取締役。早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)。ITストラテジスト。
大学卒業後、キャップジェミニ・アーンスト・アンド・ヤング(現フォーティエンスコンサルティング)に入社。日本コカ・コーラを経て、創業期のリヴァンプ入社。アパレル企業、ファストフードチェーン、システム会社などへのハンズオン支援(事業計画立案・実行、M&A、資金調達など)に従事。
その後、支援先のシステム会社にリヴァンプから転籍して代表取締役に就任。
退任後、経営共創基盤(IGPI)に入社。2013年にIGPIシンガポールを立ち上げるためシンガポールに拠点を移す。現在は3拠点、8国籍のチームで日本企業や現地企業、政府機関向けのプロジェクトに従事。
単著に『戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』『超速で成果を出す アジャイル仕事術』、共著に『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考』(共にダイヤモンド社)がある。




