社会性のある動物を
研究したいならアリが最適

「村上君は社会性のある動物が研究したいんだよね?アリはどうだい?卒業生が東京農工大学でアリの研究をしているから、ぜひ指導してもらうといいよ」

 ア、アリですか?小さいですね……。

 一瞬戸惑った。自分の思い描いていた研究イメージとは全然違う。ただ、アリは子どもの頃から親しんできた動物だし、それはそれで面白いか、ということでそこまで深く考えずにアリを題材にすることを決めた。

 茨城大学での担当はカリバチの分類をされている小島純一氏だ。早速、あいさつに行く。すると、「おお、アリをやるのか、いいな。でも、俺は3月からサバティカルでオーストラリアだから。よろしく!」

 サバティカル制度は大学教員に与えられる長期休暇のこと。休暇と言うけれど、自身の研究を深めることが目的で、大学に在籍したまま海外の研究機関などで学ぶ。

 サバティカル制度自体はいい。が、卒論にとりかかりはじめた学生をほったらかしてオーストラリアに半年間行くって、僕はどうなるのか?(じ、自由すぎる。半年も大学に来なくていいんだ。大学の教員ってすごいな)

 結局、茨城県の水戸から東京の国分寺まで片道150キロ、電車でせっせと農工大の佐藤俊幸先生のもとへ通いながらの卒論がスタートした。

オオアリとムネボソアリを
間違える初歩的なミスを犯す

 問題の卒業論文はどうなったのか。

 卒論のテーマは、「ヤマヨツボシオオアリとナワヨツボシオオアリの血縁識別能力の違いについて」だ。

 間接的な指導教員はオーストラリアに旅立っていった。直接の指導教員は150キロ離れていて、コンタクトも取りにくい。結局はひとりでコツコツやっていくしかない。

 指導教員が近くにいないというのはなかなかに切ない。だいたい、ヤマヨツボシオオアリを目にしたのは1回だけ。3年生の2月に佐藤さんに神奈川県真鶴にある森に連れていってもらい、「これがヤマヨツボシオオアリだよ」と見せられただけだ。

 朽木の中に営巣して、色が黒くて体長が4ミリ程度。コロニーサイズは200個体前後――そんな情報を頭に叩き込みながら吸虫管でアリを吸う方法を教わった。