ハキリアリはシチュエーションによってさまざまな音を発している。

 僕はハキリアリの音を聞くと、「おっ!調子良く葉っぱを切ってるねぇ」とか、「どうしたどうした!何か警戒しているぞ」といったことがわかる。どんな意味かわからない音もまだまだあるけれど、多少であればハキリアリの翻訳ができるまでになった。

 僕はパナマで蚊やダニにまみれながらハキリアリやキノコアリの音を集め、夜な夜な音響データを分類、さまざまな実験を行い、さまざまなアプローチでアリの音によるコミュニケーションについて明らかにしてきた。

 アリはしゃべる――。このテーマにどっぷりはまった13年間のお話をしていこう。

アリのコミュニケーションは
フェロモンを介して行われるが…

「いや~、さすがにアリがしゃべることはないんじゃないの?だって、アリはにおい(フェロモン)を使うでしょ」

 そう考える人は多いだろう。確かに、アリはフェロモンなど化学物質・においでコミュニケーションをとっている。アリの行列を作る「道標フェロモン」はとくに有名だ。

 たとえば食べ物を見つけたアリは、通常より濃いフェロモンを出す。ほかの個体も同じようなルールで動く。濃い道標フェロモンのにおいにフラフラとしていたアリが集まり、食料運びに加わってまた道標フェロモンを残す。ルートに残ったフェロモンの濃度はどんどん濃くなっていく。こうして「正しい」ルートにアリたちが導かれていく。

 一方で、道標フェロモンは揮発性の物質なので、時間がたつと消えてしまう。間違ったルートや遠回りなルートのフェロモンはいつしか消え、もっともたくさんのアリが通った最短ルートが残る。

 クサアリのようにきれいな行列を作るアリは少数派で、すべてのアリが行列を作るわけではないのだが、じつによくできた仕組みだ。

 そのほか、危険を感じると出す「警報フェロモン」もある。敵に遭遇したとき、そのストレスからアリは警報フェロモンを放出する。