たとえば、ハキリアリのメジャーワーカー(編集部注/アリの集団における大型の働きアリ)は、巣や行列が妨害されたときに警戒音を発する。僕もハキリアリの巣を掘っているときに、「ギーギー」という音で何度も威嚇され、咬みつかれてきた。
また、葉を運ぶとき、葉の上でノミバエを追い払うヒッチハイカー役は下で葉を運ぶワーカーの行動を音で制御しているし、巣を掘る際にワーカー間で音によるコミュニケーションがとられている。
しかし、あくまでもメインはフェロモンなどの化学物質によるコミュニケーション。音はバリエーションが少なく、それほど有効なコミュニケーション手法ではないと考えられてきた。
しかし、2009年、エポックメイキング的な論文が発表される。アリの巣の中で育つシジミチョウの幼虫が、宿主である「シワクシケアリ」の女王アリの音を擬態しているというのだ。
シジミチョウは日本にもいる珍しくないチョウだ。好蟻性昆虫として有名で、その仲間の中には、幼虫や蛹の時期、アリの巣の中で働きアリに世話をしてもらうものがいる。
アリが自らシジミチョウの幼虫を巣に運び込むのだが、それは、シジミチョウの幼虫がアリの幼虫と似た化学物質を出し、においを擬態させて仲間だと思いこませるからだ。
ここまでは広く知られていたが、シジミチョウの幼虫はなぜか、アリの幼虫よりも優先的にエサをもらうなどしてとても大切に育てられる。なぜ、シジミチョウの幼虫だけがえこひいきされるのか?
それが長らく謎だったのだが、イタリアの研究グループが、シジミチョウの幼虫や蛹はシワクシケアリの女王アリの出す音と非常に近い音を出すことで、働きアリを騙してコロニーの中で厚遇を受けている、ということを発見したのだ。
この論文は、アリは化学物質だけでなく、音を使ったコミュニケーションもかなりの重要度で行なっている可能性があること示している。
「アリはしゃべるぞ!!」
すぐに声を録音する装置を開発
アリはにおい・化学物質を使ってコミュニケーションをとることで非常に高度な社会を形成していて、それがアリの社会の基本だと言われてきたが、じつは音も非常に重要な役割を果たしているのかもしれない。そんな仮説を僕たちに提示してくれたのだ。







