つまり、「幼児期を過ぎたら環境を整えても期待できない」といったアドバイスは、遺伝率を「個人の能力がどれだけ遺伝で決まるか」を示す“絶対的な数字”だと思い込んだせいで起きた誤解にすぎない。現実には、環境が変われば遺伝率の値も変わるのだから、「私の人生は遺伝で決まるのか?」などと悩んでも意味がないだろう。
本当にIQの高い親から
IQの高い子供が生まれるのか?
「知能は親の遺伝で決まる」という“呪い”についても考えてみよう。「IQの遺伝率は約70%なので、IQが高い親からはIQが高い子供が生まれる確率が高い」という考え方のことだ。
しかし、ここまでの説明を読めば、もうおわかりだろう。遺伝率は集団内の“ばらつき”(編集部注/特定のグループで見られる個人差のこと。遺伝率は特定グループの“ばらつき”の原因を表す数値であり、個人の能力や資質がどれだけ遺伝に由来するかを特定できない)を説明したものなので、この数字を見たところで、頭のよい親から頭のよい子供が生まれるかどうかは何もわからない。
それでは、IQが高い親からは、本当にIQの高い子供が生まれるのだろうか?ある研究によれば、2302組の親子のIQを分析したところ、親子間のIQの相関係数は0.3~0.4だったという。簡単に言えば、両親の知能をいくら調べてみても、子供のIQが高いかどうかは9~16%程度でしか予測できないという意味だ。これでは「知能は親の遺伝で決まる」とは、とても言えない。
同じような現象は、“身長”の遺伝率でも確認できる。身長の遺伝率はだいたい80%だが、こちらもやはり「親の身長が高いと、子供も80%の確率で背が高くなる」といった意味になるわけではない。
8~9歳の児童419人を調べた研究によれば、両親と子供の身長の相関は0.47であり、この数字をパーセンテージに直すと、背の高い親から背の高い子供が生まれるかどうかは“22%”の確率でしか予測できないことになる。
親と子供が似る確率と
遺伝率とは尺度が異なる
一般的には、「頭のよさ」や「背の高さ」といった要素は、どちらも親に似やすいイメージがあるだろう。しかし、実際に調べてみると、その確率は意外なほど低く、親の能力や特徴を見ても子供がどのような人間になるかは予測できない。







