正解は、すべて間違いだ。この3つは遺伝率に関する定番の誤解であり、世の中に“呪い”が広まる原因になっている。

IQ120以上のこどもが都市部に
集中していることをどう捉えるか

 ヴァージニア大学などの研究では、623組の双子のIQと遺伝率の関係を調べ、次のような結論を出している。

●裕福な地域で暮らす子供は、IQの遺伝率が約72%だった。

●貧しい地域で暮らす子供は、IQの遺伝率が10%未満まで下がった。

 ご覧のとおり、生まれた環境が違うだけで、遺伝率に約60%もの差が出ている。

 その理由は簡単で、貧しい地域には良質な学校や塾が少ないため、学びの質と量が自然と制限されてしまう。このような状況では、たとえ生まれつきが高かったとしても、その素質を十分に発揮できないだろう。

 住む地域によってIQが偏るケースは珍しくなく、1056人の子供を調べたインドの研究によると、都市部で育った子供は、村で育った子供よりもIQが高い傾向があったという。

 具体的には、IQ120以上の子供の55.8%が都市部に住んでいたのに対し、農村部や小さな集落では、同じ数字がわずか1.8%にとどまった。もちろん、これは農村部に能力の低い子供が生まれやすいという話ではなく、能力を伸ばすための環境が整っていないだけだ。

 それでは、もしIQの遺伝率が低い貧しい地域に、質の高い図書館や学習センターが整備されたらどうなるだろう。子供たちは新たな学習の機会に刺激を受け、本来の能力がより引き出されるはずだ。

 つまり、貧しい地域で暮らす子供にとっては、生まれつき持っている遺伝よりも環境の変化のほうが知性に与えるインパクトが大きく、それゆえに恵まれない環境では遺伝率が低く出る。すなわち遺伝率とは、条件によって簡単に数値が変動する“相対的な指標”なわけだ。

IQの遺伝率が低い幼児期にこそ
教育環境を整える価値がある?

 この考え方に照らせば、遺伝にまつわる“呪い”のおかしさがわかるはずだ。遺伝率は計測の仕方によっていくらでも変わりうる指標であり、それで人生の可能性を判断するのは無理がある。

 一例として、ある識者が、子供の教育についてこんなアドバイスをしていた。「小学校の入学前くらいまでの幼児期であれば、お金や手間暇をかけて教育を施すのは意味がありそうですが、そこをないがしろにして、10歳以降にお金をかけても、あまり結果に期待できなさそうです」