人類の歴史は、地球規模の支配を築いた壮大な成功の物語のようにも見える。しかし、その成功の裏で、ホモ・サピエンスはずっと「借りものの時間」を生きてきた。何千年も続いた栄光は、今や終わりが近づいている。なぜそうなったのか? 『ホモ・サピエンス30万年、栄光と破滅の物語 人類帝国衰亡史』は、人類の繁栄の歴史を振り返りながら、絶滅の可能性、その理由と運命を避けるための希望についても語っている。今回、訳者でありサイエンス作家の竹内薫氏にインタビューを実施。地球温暖化にまつわる今後の課題について聞いた。(取材、構成/小川晶子)
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年々、地球の気温が上がっていく
――近年、夏の暑さは厳しくなり続けています。このまま地球の気温が上がり続けたらどうしよう……と怖くなるくらいなのですが、『人類帝国衰亡史』にも気温の上昇について書かれていました。
竹内薫氏(以下、竹内):そうですね。世界各地で気温の上昇が観測されており、最高気温の記録が次々に塗り替えられている状態です。
――私たちは気温を気にしますが、湿度も重要だということですね。人間は乾燥した環境なら40度を超える高温にもある程度耐えることができますが、湿度100%の状態で35度を超える環境に6時間以上さらされると、健康な成人でも命の危険があるとのこと。
竹内:熱と温度の組み合わせを示す指標を「湿球温度」といいます。私たちは汗をかいて体温を調節するわけですよね。汗が皮膚から蒸発する際に、気化のためのエネルギーが必要になり、そのエネルギーが奪われることで体が冷やされます。
ところが湿度100%の環境ではこの仕組みが使えません。暑い中で汗をかくことができないと、本当に死んでしまうんだというのが本書を読むとよくわかります。
――湿球温度のことは知りませんでしたが、確かに湿度が高い中での暑さは不快で苦しさを感じます。
竹内:我々は一つの基準で物事を見る傾向があります。身長とか偏差値とか、一つの基準に絞りたがる癖がある。ただ、そうすると見えない部分があるんですよ。
気温の話もそうで、気温が何度だから生存が危ういというわけではなく、気温と湿度の両方を見ないといけません。日本の夏は湿度が高くジメジメしているので、気温37度でも危険なのです。
「この湿度でこの気温だったら、子どもたちを校庭で活動させるのはやめよう」などと考える必要がある時代になっていますね。
暑すぎて住めない地域が増えていく
――今後も地球の温度は上昇することが予想されているので、そうなると暑さで住めない地域が出てくるわけですよね。
竹内:そうです。居住に適さない地域が増えます。そういった地域にいる人たちは移住することになりますが、移住も簡単ではありません。今度は移住先の人々の安寧がおびやかされるので「来るな」と言うんです。
人口が増えれば経済が上向きになる側面はありますから、ヨーロッパの人たちはこれまで積極的に移民を受け入れようとしてきました。でも、違う文化を受け入れれば、前からある文化が圧迫され、摩擦も起きます。複雑な問題が絡まり合うので難しいですね。環境変化による難民は今後増えていくでしょう。
温暖化を抑えるには
――地球温暖化をできるだけ抑えるにはどうしたらいいのでしょうか。
竹内:いろいろな努力をしてはいます。先日もホンダジェットが持続可能な航空燃料を100%使用した試験飛行に成功しました。新たに原油を掘り出して燃やせば二酸化炭素が増えてしまいますが、大気中の二酸化炭素や廃油などを利用して飛行機を飛ばすことができれば、これ以上二酸化炭素は増えません。
そんなふうに循環社会を目指す試みをやっていくことが大事だと思います。
経済合理性、効率を追及して二酸化炭素を大量に排出すれば、人類の首を絞めることになります。今は良くても100年後、200年後に取り返しのつかないことになるのですから、政治の責任は重いと思いますね。
(本原稿は、ヘンリー・ジー著『ホモ・サピエンス30万年、栄光と破滅の物語 人類帝国衰亡史』〈竹内薫訳〉に関連した書き下ろしです)



