「自由ってそんなに大事?」
奴隷研究が突きつける現代への問い
こうした奴隷制廃止にはスルーされがちな問題があったという。
「芸娼妓解放令でもそうですが、奴隷制が廃止されると、その生活保障がなくなっちゃうわけですよね」
奴隷制においてはいちおうのところ衣食住が保障されている。だから奴隷たちが突然自由になったとき、それで一件落着というわけにはいかなかったはずだ。
20世紀前半のペルシャ湾でも興味深い事例がある。かつてペルシャ湾は真珠の産地で、奴隷が主要な労働力だった。ところが、世界恐慌の波や、日本のミキモトが成功させた養殖真珠の普及によって、真珠産業がダメージを受けた。
「するとね、奴隷のなかでクビになる奴隷が出てくるんですよ」
主人が彼らを養えなくなってしまったのだ。これにより、奴隷制は自然消滅していったという。経済的理由による消滅だ。
現代の価値観において、「自由」はいいこと、尊重されるべきこととされる。しかし歴史を深く研究することで、自由への疑問が浮かび上がる。
『変わり者たちの秘密基地 国立民族学博物館』(樫永真佐夫、CEメディアハウス)
「たとえばコロナ禍で、自粛警察なんてのが出てきて、嬉々として役割をつくって当てはめて、みんな好きこのんで統制したり、統制されたりしにいくのは興味深い現象でした。じつはみんな、自由でいなければならないということに疲れていたんじゃないか、と、ふと思いました」
自由は素晴らしい。
しかし、自由って何していいのかよくわかんない。
自由ってそんなに大事ですかね?
この問いかけに簡単な答えは見つからない。現代社会が実現したと思い込んでいる「自由」は、その陰で昔から変わらず「不自由」を強いられる人を生み出し続けている。真の自由とは何か?そして人間の幸福とは何か?奴隷制から考える自由はその一例に過ぎないが、普遍のテーマを考えるとき、歴史学は示唆を与えてくれるのだと知った。







